猫の避妊と去勢

暖かい陽射しの中でまどろんでいる猫の姿は、見ていて癒されます。でも、ちょっと待ってください。これが、お部屋の中なら、微笑ましい姿です。しかし、お外だったら・・・

猫は生後1年たたずに妊娠可能

避妊手術をされていないメス猫は、生後8か月前後で妊娠可能となり(早い場合は生後5ヶ月という例もあります!)、年に2~3回出産します。1回に4~5匹の子猫を生むので、1頭のメス猫から1年で10頭以上に増えてしまうこともあり得ます。

オスも生後8か月くらいから交尾可能となります。

猫は交尾の刺激で排卵する交尾排卵動物ですので、交尾をすればほぼ確実に妊娠します。鼠算という言葉がありますが、猫も繁殖力では負けていません。生まれた子猫を全部飼うことも、新しい飼い主を見つけることも不可能です。そうなる前に、メスは避妊手術、オスは去勢手術をさせましょう。

外で飼うリスク

一般的に人が飼うペットの中で、猫だけが自由に外を歩いていますが、交通事故等で路上で死亡する猫の数は残念ながらゼロではありません。猫の繁殖期(早春から晩秋)には、オスもメスも交尾相手を求めて、普段は行かない遠方まで移動するため、交通事故に遭うリスクは増えます。さらに、オスはメスをめぐる喧嘩により、猫に致命的な感染症(猫白血病等)に罹るリスクが増えます。

オスもメスも自分の存在を繁殖相手にアピールするために、様々な場所におしっこをかけて臭いを付けます。特に去勢していないオスのおしっこは、オスのホルモンの影響で独特の悪臭がするので、大変なご近所迷惑になってしまいます。

また、2020年度に全国の行政施設で殺処分された子猫は13,030頭にのぼり、犬猫の殺処分の55%を占めています(環境省統計)。その多くは、外にいる猫が生んだ子猫です。もし外で飼う場合には、避妊手術・去勢手術が必須といえるでしょう。

猫の室内飼育は義務ではありませんが、猫の健康と安全やご近所への配慮を考えると、室内で飼育することが望まれます。やむを得ず、屋外飼育する場合は、最低でも避妊や去勢を施し、迷子札を付け、外にもトイレを設置しておきましょう。(*当サイトでは、猫は完全室内飼いを強く推奨します。決して外飼いを容認するものではありません。)

室内飼育でも避妊手術・去勢手術は必要

では、室内飼育なら大丈夫かといえば、やはり避妊手術や去勢手術は必要です。

メス猫は発情すると、独特の低い大きな声で鳴き、身体を人や物にこすりつけたり、転げまわったりする行動をします。猫は交尾しないと排卵しないので、発情行動が1~2週間ほど続きます。室内飼いの猫でも、交尾の相手を探すために外に出たがったり、実際に扉の隙間などから外に出てしまうこともあります。外に出て交尾すれば、ほぼ100%妊娠します。

交尾しないと発情行動は1週間ほどで一度収まりますが、1~2週間後にまた発情が始まります。猫の繁殖期である早春から晩秋までの間、メスは1~3週間の間隔で、発情を繰り返します。猫の繁殖期は日の長い時期なので、室内の人工照明下で飼われている猫は一年中発情することも あり得ます。

オスも性成熟すると、独特のにおいのあるおしっこを霧吹きのようにあちこちにかける「スプレー行動」が始まります。この行動は生理的な行動なので、しつけでやめさせることはできません。繁殖の相手を求めて外に出てしまうと、メスをめぐって他のオスとケンカをしたり、他のオスに攻撃されて家に帰れなくなることもあります。

これらの繁殖に関係する困った行動は、避妊手術や去勢手術を受けさせる以外になくす方法はありません。

1匹で飼う場合でも、子孫を残したいという本能が満たせない場合、猫にとっては大きなストレスとなります。 

メリットとデメリット

オスは精巣を取る手術、メスは一般的に卵巣と子宮を取る手術を行います。

勿論、健康な体にメスを入れるわけですから、デメリットが無いわけではありません。麻酔のリスクはありますし、繁殖関係に使うエネルギーの消費がなくなる分、手術後はきちんと食餌管理をしないと太りやすくなります。また、当然繁殖はできなくなります。

それでも、避妊去勢手術をするメリットは、デメリットを遥かに上回ります。

オスもメスも、望まない妊娠出産を防げるだけでなく、「スプレー行動」など繁殖に関する生理的な困った行動を減らします。繁殖に関するストレスがなくなり、穏やかな性格となり飼いやすくなったり、生殖器系の病気に罹るリスクも少なくなります。

手術の時期

いつ手術をするかは、その猫の成長具合や栄養状態等によって変わってきますが、性成熟を迎える前がいいでしょう。

特にオスは、性成熟とともにあちこちにおしっこをかける「スプレー行動」など、室内で人と一緒に暮らすにはちょっと困る行動が現れ始めます。

メスも、まだ子猫だと油断していると発情が始まり、扉の隙間から外に出て、交尾・妊娠して帰ってくるということが起こりえます。子猫の場合は、猫の繁殖期である春が来る前に、避妊手術を済ませておくとよいでしょう。

大人の猫は、いつでも手術が可能です。発情期や妊娠していると手術の時に注意が必要になり、すこし時期をずらすこともあります。

具体的な時期は、動物病院の獣医師と相談して下さい。

繁殖を目的として猫を飼育する場合は除いて、家庭猫には避妊去勢手術を行い、猫にとっても飼い主さんにとっても出来るだけストレスの少ない生活を楽しみましょう。

 

執筆者:事務局