高齢猫の日常ケアの注意点

高齢期はいつから?

猫の老化の徴候は10歳前後から見られ始めます。2021年の猫の平均寿命の報告は15.66歳で、寿命の75%経過を高齢期とするという定義で算出すると、11.75歳からが高齢期となります。

老化は避けられない現象ですが、良い年を重ねるために日常ケアでどんな注意をしたらよいか考えてみましょう。

猫にも起こっているフレイル

フレイルとは、高齢者の老化によって起こる不健康な状態を改善するために提唱された言葉です。年齢と共に活動量が減り、エネルギーの必要量が減れば食事の量も減り、活動量と栄養が減れば体重(筋肉量)が減り、筋肉量の減少で活動量がさらに減り、という負の循環で身体が虚弱になっていくことです。フレイルが進行すると日常生活にサポートが必要になりますが、適切な日常ケアをすることで予防することができます。

猫は自立心の強い動物です。サポートが必要となるのは晩年になってからになりますが、早期の対策で予防することができます。

健康の基礎チェック

持病のチェック

高齢になると、慢性疾患を抱えていることが少なくありません。フレイル予防には、まず隠れた病気がないか確認しておくことが大切です。病気を知らないままのアンチエイジングケアは、かえってフレイルを悪化させかねません。

猫では行動や見た目の変化が分かりにくく、病気に気づきにくいですが、下記のような変化は病気によって起こっている場合もあります。変化に気づいたら、隠れた病気がないか診察を受けましょう。

高齢猫でよく見られる変化
  • 体重が減った
  • 口臭が出てきた
  • 目ヤニが増えた
  • 毛のツヤがなくなってきた。パサつきやすくなった
  • 歯に黄ばみがある、茶色っぽくなってきた
  • お尻が小さくなった
  • お腹がたるんできた
  • 爪がよく伸びるようになった

運動と栄養

本来、猫はこまめに狩りをして食事をする体をしていますが、現代の生活ではその必要がありません。そのため、運動量は減っていますが栄養は十分に得られる状況にあります。

運動量の低下で筋力は低下します。栄養過多は肥満にもつながり、運動意欲の低下につながっていきます。

猫が動く環境を整えましょう。おもちゃで遊ぶことが少なくなって、運動させるのはむずかしいと思われるかもしれませんが、食事やトイレの場所を休息場所から離したり、パトロールできる場所を増やすなど、動く機会を増やしてあげましょう。

運動と同時に、バランスのとれた栄養を取ることも大切です。低栄養状態では筋肉がつかないどころか、さらに低栄養状態を悪化させてしまいます。

感染症

高齢猫では感染症に対する免疫力も低下していきます。できる感染症対策はしておきましょう。

●予防接種

健康状態が良いことを獣医師が確認してから接種します。高齢だから、と自己判断せずに、ぜひ獣医師にご相談ください。

●口腔ケア・歯周病ケアも大切です

歯周病菌は、人と同じように体内に入って、関節炎などを悪化させる原因ともなります。

歯周病は、噛む・飲み込むなどの口腔機能に影響し、低栄養にもつながります。

もし今、口内炎や歯石があるならば治療をしておきましょう。そして、治療後のケアもしていきましょう。

生活習慣・環境の見直し

起きる時間、食事の時間、排せつの時間、昼寝や寝る時間など一日の生活を振り返ってみましょう。併せてご家族のお出かけや帰宅時間も入れて考えてみてください。猫は人間と行動を共にすることは少ないのでだいたいの時間でかまいません。若い時と比べて変化があるでしょうか?ごはんとトイレの時以外起きている姿を見ていないなど、活動時間が縮小されていることはありませんか?食事に対する意欲はどうでしょう?活動量が減ると筋力の低下を招きさまざまな意欲を低下させます。意欲低下・活動量の低下・筋肉量の低下の負の循環はますます生活機能を低下させてしまいます。

生活習慣や環境を振り返って意欲低下の原因は何か?不便を感じていることはないか?見直してみてください。

日常のチェック

水分ケア

体の水分量は年齢と共に減少します。飲水量も減りますが、筋肉量の低下などで、体内にとどめておく力や体表からの喪失もあります。

こまめな水分補給やお部屋の湿度の調整、保湿などのスキンケアをしましょう。

1日の飲水量は、体重1kgあたり約50mlを目安にするとよいでしょう。(体調により獣医師に相談してください。)

体温調整

体の水分量が減ると、代謝や循環の衰えで体温調節が苦手になります。温度感覚が衰えて、寒暖を感じにくくなってくることもあります。空調の温度調整だけで安心せずに、愛猫の体に触れて確認してください。

室内の快適な温湿度

温度:25~28度
湿度:50%前後

行動観察

日常の行動の観察はご家族だからできることです。

おうちでの様子や歩き方、食事、トイレの様子など観察してください。

あれっ?という違和感はとても大切です。

すぐの受診に迷ったら、携帯で写真や動画を撮ったり、カレンダーにメモをしておくなど記録をしておきましょう。

記録があると判断も相談もしやすくなります。

 

執筆者:松本晃子
獣医師
ペットホームケアえるそる:犬猫訪問鍼灸・介護リハビリ 訪問獣医師
ペットケアサービスLet’s(高齢犬デイケアサービス&犬の幼稚園):デイケア担当 非常勤
赤坂動物病院:シニアケア担当 非常勤
日本獣医生命科学大学卒、獣医中医師・獣医推拿整体師、
獣医保健ソーシャルワーカー®、横浜市動物適正飼育推進員