高齢猫の栄養と療法食

猫のシニア期とは、何歳からを指すのでしょうか?

明確な決まりはありませんが、おおよそ6〜7歳頃からを指す事が多いようです。人間では40台後半から50歳程度に相当します。「老齢」というには失礼な年齢ではありますが、この頃から、人間でいえば「生活習慣病」の予防が強調されるようになり、健康診断でも検査項目が増える傾向にあります。

段々に、老齢期の病気リスクへの備えを始める時期だからです。シニアの猫では、7〜8歳ごろから病気が症状として現れ始めることが多いのですが、早期に発見した方がその後の経過も良好で治療もしやすいので、6〜7歳ごろからシニア期の健康・未病を意識することが大切です。

また、シニア期は身体的能力、食欲、水を飲む行動、トイレに足を運ぶ頻度など、全般的な行動も緩慢になりがちです。薬を飲ませる、便秘にならないように水を飲ませる、トイレに行かせる、といったことも、より飼い主さんが意識して配慮、徹底する必要があります。

シニア期の猫が、より健康で長生きするためのコツは大きく4つあります。

  1. 身体の機能をより良好に保つため、栄養バランスの良い食事を給与
  2. シニア期に多い病気にかかっていないか、スクリーニングの健康診断
  3. シニア期に多い病気が見つかれば、早期から治療を行い、良い状態を維持
  4. 身体的衰えに対応した生活環境を整え、心地よく過ごせる工夫を提供

この4つのコツの全てにおいて、食事からサポートできることがあります。

食事は徐々にシニア期用のものに変える

1.身体の機能をより良好に保つため、栄養バランスの良い食事を給与

まず、食事は徐々にシニア期用のものに変えましょう。味の変化に敏感な猫もいますので、そのような場合は時間をかけて変えていきます。おおよそ、1週間〜1ヶ月ほどかけて変えてあげると良いでしょう。

また、サプリメントも与えた方が良いか、気になる場合はかかりつけの獣医師に相談してください。このような時のために、定期的に健康診断を受け、「健康な状態」を知っているかかりつけの獣医師がいたほうが安心です。

サプリメントも様々ありますが、猫ごとに優先される栄養素も異なり、また、場合によってはサプリの錠剤より、それを配合したフードに変えたほうがたくさん摂取できることもあります。健康診断時などに、一緒に動物病院で相談すると良いでしょう。

年1〜2回の健康診断

2.シニア期に多い病気にかかっていないか、スクリーニングの健康診断

健康な猫を病院に連れて行くことは、時に大変な場合もあります。猫が抵抗してケージに入ってくれない等の理由で、症状が進行して元気がない状態まで来院しないという例もあります。

シニア期の猫には、年1〜2回の健康診断をお勧めします。病院を嫌がる猫の場合、猫の扱いに慣れている猫専門の動物病院や、犬・猫の待合スペースや入院室を分けてある病院、獣医師・看護師が猫の扱いを熟知している病院などを選ぶこともできます。ホームページや電話で確認し、連れて行きやすい方法を事前相談しておくと安心です。

シニア期に多い病気の代表例は、慢性腎臓病、それに伴う高血圧、甲状腺機能亢進症、関節炎、慢性の頑固な便秘、様々な種類のがん、などがあります。中には、かなり進行するまで健康そうに見える病気もあります。定期的に健康状態を確認しておくと安心です。

療法食や薬の与え方

3.シニア期に多い病気が見つかれば、早期から治療を行い、良い状態を維持

実際に病気が見つかり、治療することになった場合を考えましょう。上記に挙げた病気では、手術、内服薬などの治療とともに、専用の療法食を勧められる場合があります。

療法食は、勧められたものを取り入れると良いでしょう。人間であれば、腎透析をしている患者さんには栄養指導が入ります。慢性の便秘の人も、便通が良くなるような食事内容を考えるでしょう。同様に、猫にも専用のフードがあるので、獣医師の指示に従って、指定されたメーカー、製品を与えてください。

また、フードとお薬との組み合わせも、獣医師の説明に従い、不明点があれば納得できるまで質問してください。病気によっては、薬と療法食の両方を一緒にあげたほうが良いもの、薬か療法食かどちらかだけで良いもの、などあります。

もし、自己判断で病状が悪化した場合、後で動物病院での経緯説明がしにくくなりますので、獣医師の指示内容を守りましょう。心配事があれば、電話でも良いので先に動物病院や担当獣医師に相談したほうが、後々の治療もスムーズです。

心地よい食事環境

4.身体的衰えに対応した生活環境を整え、心地よく過ごせる工夫を提供

最後に、療法食や薬の投与も含め、心地よい食事環境についてお話しします。まずは、シニア期では動作が緩慢になる傾向があるので、なるべく五感に刺激のある、心地よい環境を整えます。

それによって、食事を食べる、水を飲む、排泄するといった、基本的動作が促進されます。日光の当たる場所、外の見える窓際などに猫用のベッドをおいてあげることで、屋外の小鳥や人の動きなど見ることで視覚的刺激が得られ、体内時計も整います。水は新鮮なものを猫の通り道に置き、気軽に飲めるように工夫します。

また、猫は本来、狩ったばかり新鮮な獲物しか食べませんから、30〜40℃に加熱したフードを好みます。特に、38〜40℃程度が最適です。この範囲より冷たい、熱いフードは食べたがらず、この傾向は特にシニア期で顕著になります。

フードを食べなくて痩せてしまう場合、ドライフード、ウェットフードともに、人肌程度に加熱して与える工夫をしてみてください。そして、猫は野性では単独で狩り・食事をしますので、本来は猫ごとに分けたフードボール、水飲みボールがあることが理想です。

特に、体調の悪い猫は、単独での食事を好み、フードボールの共有を嫌がる傾向が強くなります。これまでほかの猫と一緒のボールを使っていた場合、療法食への切り替えと同時に専用の水・フードボールへの移行も同時に考えると良いでしょう。

このように、シニア期の猫には、今までとちょっと違う配慮をするだけでも、より長く充実した人生をプレゼントすることができます。今までやっていなかった、これならできそう、というものがあれば、ぜひ試してください。

 

●参考文献

Small Animal Clinical Nutrition, 5th edition, Mark Morris Institute

Chapter 19 Introduction to Feeding Normal Cats. p. 361-372

Chapter 21 Mature Adult Cats- Middle Aged and Older. p. 389-400

https://www.markmorrisinstitute.org/sacn5_download.html. Accessed on December 19, 2021.

 

執筆者:中尾るり子
獣医師
略歴:日本大学農獣医学部獣医学科卒業、アメリカ・ワシントン州立大学にて博士(栄養学)を取得。帰国後、動物病院勤務、大学教員、ペットフードメーカー勤務を経て、現在は内閣府食品安全委員会にて非常勤の勤務の傍ら、翻訳、通訳、栄養関連の執筆活動を行う。