高齢猫の認知症

認知症とは

ある日夜中に突然大きな声で鳴く、ウロウロと目的もなく動き回る・・・・・・

年だから?認知症?と戸惑うことと思います。

猫の認知症とは、高齢性認知機能不全症候群というのが正式名称ですが、脳の中の記憶や学習、理解、判断をする領域の働きが病的に変化した状態です。

老化による生理的な変化でも働きは低下していきますが、限度を超えると認知症となります。持病やケガや過剰なストレスなどによっても症候が現れます。

機能が低下する領域や程度によって現れる症状は様々ですが、理解力や判断力などの低下で自立した日常生活を送ることが難しくなるのが認知症です。

認知症の主な症状

認知症の主な症状は、

  • 見当識障害(Disorientation)
  • 周囲との関わり方の変化(Interaction changes)
  • 睡眠サイクルの変化(Sleep-wake cycle)
  • 学習・記憶力の低下(House-training is forgotten)
  • 活動性の変化(Activity changes)
  • 不安(Anxiety)

に分類されます。

学習や記憶力、理解力の低下が脳の機能低下で認知症の中核ですが、不安や混乱などから生じる、怒りやすかったり怖がったり無関心になるというような、行動や心理状態も認知症の症候です。

早期発見のために

認知症の初期段階では、忘れっぽくなり困っていることがあるのだと思います。でも、猫は限界を超えるまで、それを表に出すことはしないでしょう。ある日、突然の問題行動となることが少なくありません。

認知症には、身体症状と心理症状、行動症状が相互に複雑に関係します。

早めの対処は、不安な心理状態からさらに引き起こされる、行動症状の予防や緩和にもつながります。

見過ごさないために注目したい行動症状を挙げます。

食の変化

好きだったフードを食べなくなるなど、食べ物の好みが変わったりします。また、食事をしたのにさらにまだ食事をほしがるなど、食欲の異常が出る猫もいます。食欲不振になる猫もいます。

怒りやすい

簡単に怒ったり、攻撃的や破壊的になる猫もいます。

人だけでなく、同居の動物に対しても折り合いが悪くなることもあります。

顔を洗ったり、毛づくろいをしない

身だしなみに無頓着になるのは人と同様のようです。目や口の周りが汚れたままであったり、毛並みがボサボサになっていたりします。

トイレの粗相

トイレの場所が分からなくなったり、無頓着となりどこでも排泄をしたり、お漏らしをするようになることもあります。

その他の活動の変化

日中は深く長く眠り、夜間眠らずウロウロと徘徊することがあります。

夜中に大きな声で鳴きながら徘徊することもあります。

行動変化が気になったら獣医師に相談しましょう。

認知症の行動変化は認知症特有の行動ではなく、例えば目や耳などの感覚器の機能低下でも、怒りっぽくなったり、ウロウロと歩き回ったり、意欲がなくなって寝てばかりになるということもあります。病気があれば、治療によって行動が改善することもあります。

病院へ連れていくことが難しい場合は、まずは動画のみでご相談されてもよいでしょう。

気になる行動の時に、全身が入るように撮影しましょう。

(事前に相談先の獣医師に必ずお問合せください。)

予防と対策

認知症はまだ未知が多く、予防や治療法は確立していませんが、脳の機能低下を予防することが認知症予防となります。

サプリメントや食餌

脳の機能低下には、抗酸化力の低下が関係すると言われています。抗酸化物質を含むフードやサプリメントは予防に役立つと考えられます。

脳トレ

理解力の低下が心理状態を悪化させます。知っていることできることを増やしておくことで、選択肢が増え不安軽減に役立ちます。

ハンドサインでコミュニケーションを取れるようにしたり、音やにおいをつかってゲームをしたり、ご家族の声掛けや体に触れることも脳への刺激でトレーニングになります。

目と目が合わず呼びかけに応じなくなっても、においや肌感覚で感じています。たくさんコミュニケーションを取ることが脳トレになります。

薬物治療

夜鳴きや徘徊、攻撃性などは人との暮らしを難しくします。

症状が強く出る場合は薬を使うことも必要です。

頑張りすぎずに、人との暮らしが健康に保たれることを最優先に考えましょう。

行動症状、心理症状は、それぞれに違います。早めに相談することは、不安な心理状態からさらに引き起こされる、行動症状の予防や緩和につながります。

さいごに

愛猫は、ご家族を縛り付けることを望んではいません。少し自分の時間も欲しいと思っているかもしれません。ご家族だけで抱え込まず、たくさんの手や目を借りて、大切な時間を過ごしてください。

 

執筆者:松本晃子
獣医師
ペットホームケアえるそる:犬猫訪問鍼灸・介護リハビリ 訪問獣医師
ペットケアサービスLet’s(高齢犬デイケアサービス&犬の幼稚園):デイケア担当 非常勤
赤坂動物病院:シニアケア担当 非常勤
日本獣医生命科学大学卒、獣医中医師・獣医推拿整体師、
獣医保健ソーシャルワーカー®、横浜市動物適正飼育推進員