子猫のごはん[成長期の子猫の食事]

註:この記事では、野生の「ねこ」を「ネコ」または「野生ネコ」、家庭の「ねこ」を「猫」または「家庭猫」と表記します。そして、家庭猫の「食べもの」を「フード」、「フード」と「フードに関わるさまざまな出来事(たとえば食べ方など)」をまとめて「食事」と表記します。

「猫」の「ネコ」らしさ

家庭猫はどこから来たの?

家庭猫の起源は、乾燥地域に暮らしていた野生ネコであろうと考えられています。一般的に、野生ネコはげっ歯類、うさぎ、鳥、は虫類、昆虫などの小さな動物を単独で捕まえて食べています。たとえば、小さなハツカネズミを食べるとなると、食べられる部分のエネルギーはネズミ1匹あたりでおよそ30 kcalです。ということは、ある野生ネコ1頭の1日のエネルギー要求量を300kcalとすると、このネコはハツカネズミを1日に10匹程度捕まえて食べないと、その日の生存を健康に維持できません。物陰などに身を隠して、見つけて、追いかけて、捕まえて…、もしかしたら失敗するかもしれません。失敗も合わせて考えれば、1日に10回以上もいろいろな活動をすることになります。野生ネコの自然を考えると、野生ネコは毎日、ある程度の緊張感と集中力をもって、すばやい活発な運動を行っている動物です。

ですから、家庭猫にも、ある程度の緊張感を持つことができて、集中力を使えて、十分な運動ができて、落ち着いて飲食できて、安心して休める環境を用意してあげたいですね。

水分に困らないようにしてあげましょう

先祖となるネコが乾燥地域に順応していたためか、猫には、体に取り込んだ水分を体に保っておくための能力があります。体内から体外へ簡単に出ていかないように、猫は水分を上手に利用します。猫は尿を濃くする能力に長け、体に必要ないミネラル分を効率よく体外へ尿として排出することができます。とはいえ、あまりにもミネラル分の濃い尿は、家庭猫の膀胱や尿道に負担をかけることがあります。ですから、できる限り濃い尿を作らなくても済むようにしてあげたいですね。濃い尿は、猫が水分を飲みにくいこと、猫がオシッコを辛抱してしまうこと、ミネラル分の多い食べものを食べ続けることで起こりがちです。猫がストレスなくいつでも尿をすることができ、いつでも水を飲める環境を用意してください。特に快活に動き回る成長期の猫は、体重あたりに必要な水分量が多くなります。缶詰やパウチパックのウェットフードを用いたり、いつでも落ち着いて水を飲めるように給水場所を複数用意したり、いつでも排泄できるように快適で清潔なトイレを複数用意したりして、猫が十分に水分の摂取と排泄をできるようにしてあげましょう。

だれでも落ち着いて排泄したいし、食事したいですよね

同じ家庭の猫仲間といえども、ある限られたスペースに多くの猫が暮らすとなると、猫同士の気くばりや、食事やトイレの順番待ちなどをしなくてはならず、猫たちに多少のストレスがかかります。ストレスへの対応能力は猫の個性次第ですが、猫に過剰なストレスが続くと、食欲不振になったり、血の混じった尿をしたりする場合があります。ですから、多くの猫を飼育する場合には、すべての猫が身を隠せる休憩場所を家の中にいくつか設け、猫の頭数よりも1つ多い数の水飲み場や食事場所やトイレを用意して、すべての猫に心地よい環境を飼い主さんが準備してあげましょう。

好みの味わい

ある猫は食事において「気まぐれ」や「こだわり」を示すかもしれません。たとえば、いくらお腹が空いていても、好みでないフードを決して食べようとしない猫がいます。野生ネコの離乳期の子ネコは、母ネコが捕らえてきたいろいろな小動物を受け入れて、なんでも試して食べようとします。どんな「食べもの」があるのか?どんな「味わい」か?体験して、何が「食べられるもの」、「食べてもよいもの」なのか覚えていくのですね。ですから、飼い主さんが離乳期にさまざまな種類のフードを与えることは、その猫の将来にわたるフードの選択肢の幅を広げることになります。でも気をつけてください。食事中にストレスを感じるとそれまで食べていたものを食べなくなることもあります。それから、落ち着いた安心できる環境ではなんでも食べられていたのに、ストレスがあると慣れているフードしか食べなくなることもあります。また、胃腸の具合が悪い時に食べていたフードと体調の不具合の体験とを結びつけてしまって、その後、その時のフードを食べなくなることもあります。ですから、さまざまなフードを食べさせて欲しいですけれども、新たなフードを与えるときは慎重に体調を確かめながら行ってください。

食の経験

子猫の時期に食べたことのあるフードの種類が、成猫になってからも慣れた味わいとなります。子猫の時期に食べたことのないものを、成猫になってから食べたがらないことがあります。子猫の時期の食の経験(風味、食感、テクスチャー*、脂肪の量、水分の量など)が、その猫の一生の食事の好みに影響します。将来、年齢別フードや療法食に切り替えることを考え、猫が食にこだわりをみせない時期から早めにさまざまな食味(肉、魚、ドライ/ウェットなど)に慣れさせておきましょう。子猫には、安定して落ち着くことのできる場所を設けて、よい食の経験ができるように、ストレスの小さい生活環境を用意してください。

*註:テクスチャ―とは、食べものの歯ざわり・舌ざわり・口あたりのことです。猫は粉状のフードよりも、粉末に水分を加えて練り餌状にしたフードを好みます。

環境-体内の環境と体外の環境

お迎えする前に

子猫は、生活環境、食事、ストレスなどのすべてを自分だけで管理することはできません。子猫は、飼い主さんから用意された生活環境や食事に自分を預ける生活をしています。子猫が感じるストレスを小さくするために、飼い主さんが子猫の生活環境・食事・健康の管理をしてあげましょう。

かかりつけの動物病院や信頼できる獣医療従事者を見つけて、健康診断を受けてださい。子猫のころから動物病院や獣医療従事者に慣れておけば、その猫の一生を通じて専門家に相談しやすくなります。

子猫をお迎えする前に、ブリーダー、ペットショップ、前の飼い主さんには、それまで与えていたフードが何か、どのように与えていたか、使っていた器具は何かを尋ねて、おうちに用意してください。

体内の環境

体重

生まれた時          85~120グラム(g)です。毎日、量り続けましょう。

1~2週齢 生まれた時の体重の2倍。

3~4週齢 生まれた時の体重の3倍。

6~9週齢 離乳期。1週間に約100g、1日に7~13gの増加。以降は1週間に1回以上、量りましょう。

~6か月齢            1日に11~30gの増加。以降は1か月に1回以上、量りましょう。

~8か月齢            成猫の80%ぐらい。

~10か月齢          成猫とほぼ同じ。

体重が増えなかったり、減ったりすることは危険のサインですから、動物病院でしっかり伝えてください。動物病院へ訪問するときには、その時に食べているフードのパッケージ(またはその写真)と飼育手帳を持っていくと、家庭での状況を説明するときに便利です。他にも、飼育手帳には、便の状態(ゆるいかたいなど)、食べたフードの種類と量と回数、体温、子猫の特徴(毛色、名前など)、ボディ・コンディション・スコア(BCS)、生活の変化(歩き始めた、トイレの場所を覚えた、自分の寝床を認識したなど)、ワクチン接種日、投薬日などなど、なんでもつぶさに記録してください。記録した手帳を獣医療従事者に確認してもらうと、獣医療従事者が子猫の暮らしを想像できます。子猫の成長や個性に応じた説明を受けられるでしょう。

便の状態 (Fecal/ Feces condition scoring)

うんちのかたさの目安です。7段階で2,3を通常的とします。

  1. 個別に分かれていて、一つひとつがコロコロした、硬い塊です。乾燥しており、たいていの場合は猫が一所懸命にいきむと出てきます。拾った後に地面に便が残りません。
  2. 通常のうんちの形です。「かりんとう」や「ソーセージ」の形で表面に割れ目があります。形があり、硬すぎず、しなやかです。拾った後に地面にほとんど残りません。
  3. 通常のうんちの形です。「輪切りの丸太」の形をしています。表面が湿っています。分かれていないか、いくつかの部分に分かれています。拾うときにつかめますが、地面に少し残ります。
  4. とても潤っています。「輪切りの丸太」の形です。拾うときに形が崩れて、地面に残ります。
  5. 軟便です。とても潤っています。ですけれども、形はあります。丸太状ではなく、こんもりと積み重なっています。拾うときに形が崩れて、地面に残ります。
  6. 下痢です。質感はありますが、形はありません。あちこちに点状に「マッシュポテト」のようにぽってりと積み重なっています。拾うときに地面に残ります。
  7. 液状で水っぽい下痢便です。質感、形、固形物はありません。水平でぺったんこです。

※哺乳期は黄色~薄茶色(、または時に緑色)で、おとなの猫の通常(2.3)よりも若干ゆるい便をします。離乳すると色が濃くそして硬くなってきます。

ボディ・コンディション・スコア(BCS)

肋骨、骨盤、背骨、お腹の具合をみて、数値で体格を表す9段階の指標です。

ここでは9段階のうち、1, 3, 5, 7, 9を示します。

1.とてもやせています。肋骨も、背骨も、骨盤も、かんたんにすぐわかります。お腹が凹んでいます。

3.やせています。肋骨が薄い脂肪の向こうにかんたんに触れます。骨盤と背骨がはっきりしています。肋骨の辺りでくっきりとしたお腹のくびれがわかります。

5.理想的な体つきです。薄い脂肪に覆われた肋骨の位置が触るとわかります。肋骨の辺りのお腹のくびれがわかります。

7.太っています。脂肪に覆われて肋骨の位置がかんたんにはわかりません。くびれはかんたんにはわかりません。お腹はやや膨らんでいることがあります。

9.とても太っています。厚い脂肪に覆われて肋骨を触れません。腰の部分の背骨の周り、顔、手足に厚い脂肪があります。お腹はだらんと垂れ下がって膨らんでいます。

体外の環境

湿度の目安

湿度は50%ぐらいで、40~60%の幅に保ってください。

気温の目安

子猫の周囲の温度を暖かく保ってください。特に生後4週目ぐらいまでは子猫は自分で体温をうまく調節できません。子猫の爪に引っかかったり体に巻き付いたりするような糸がない柔らかい布やフリース生地、紙や木製の箱なども使って子猫の周囲の温度を暖かく保ってあげましょう。

暖房器具を利用するときは、乾燥しすぎたり、子猫がやけどしたりしないように気を付けてください。

1週齢                  33℃ぐらい

2週齢                  28℃ぐらい

3週齢                  26℃ぐらい

4~12週齢          24℃ぐらい

食べ物の温度は38℃

母乳は温かいですよね。なぜかというと母猫の体温で温められているからです。ですから、人工乳で育てる場合も38℃に作り哺乳できると良いですね。同様に、もともとネコの食餌となる小動物は体温を保持していたわけですから、猫のフードも38℃ぐらいから人肌の温度ぐらいが食べやすく猫に好まれます。

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食器

フード用と水飲み用の2つを用意してください。ひげが食器にあたることを猫は好みません。縁の高さが低くて薄い平たいタイプの食器を用意しましょう。材質はプラス築盛よりも、ステンレス製や陶器製の方が食べるようです。また、ステンレス製や陶器製は消毒をしやすく、衛生面や安定性からも扱いやすいといえます。

子猫に必要な水の量

18mL/100g/日です。1日に、体重100gあたり、水が18mL必要です。子猫は成猫と比べると、体内の水分量が多めです。子猫の水が不足しないように気を配ってください。ウェットフードの利用が便利です。

子猫をお迎えするとき

フードの切り替え

お迎えして間もないころは、子猫の生活環境が変わります。フードの種類も急に変わると子猫のストレスは大きくなります。できる限り余計なストレスは避けたいですね。フードを急に切り替えないでください。おうちにお迎えしてから1週間ぐらいは、切り替えをせず同じフードを同じように与えましょう。

成長に応じ、以前食べていたフードから、次のフードに切り替えるときは、7~10日間ほど(必要ならそれ以上に)かけて少しずつ切り替えてください。以前のフードの量を少しずつ減らしながら、次のフードを少しずつ増やします。

1日分の給与量は?

与えるフードは、「総合栄養食」を選んでください。「成長期用」、「幼猫用」と表示されているフードが市販されています。そして、パッケージの裏面や側面の詳しい説明をぜひご覧ください。子猫の体重に合わせて、給与量の表示が細かく詳しいフードが便利です。子猫はぐんぐんと速い成長をみせます。成長に合わせて、理想的な体重を目安に与えるフードの量はグラム(g)単位で増えます。週齢、月齢、体重やフードのグラム(g)表示が細かいものを選ぶと、子猫の成長や食べる量に合わせて調整しやすくなります。1日分の給与量の目安ができたら、子猫は1回に少しずつ食べますから、1日分の量を少しずつ分けて複数回与えてください。

どうやってフードを量るの?

猫専用に、計量用の「はかり(スケール)」と「カップ」、「スプーン」をぜひ用意してください。「はかり」は、ペットフードの重さを量るためにも必要ですし、子猫の成長具合を体重で確かめるためにも必要です。ペットフード用のはかりもありますが、1グラム(g)単位で量れるものであれば、もとからおうちにある一般用でも十分です。給与量の表を確かめながら利用しましょう。「カップ」や「スプーン」は、1日分の給与量をあらかじめ量っておくことに利用できます。カップの目盛りを目安にしたり、カップに印を付けたり、スプーンで何杯か覚えたりしておくと、フードを与えやすくなります。

人間の食べ物を与えないでください

猫用の総合栄養食は、栄養素の量を猫向けに猫の健康を考えて調製しています。特にミネラル量をよく考慮しています。ですから、人間用の食品や食材を、猫に与えないでください。牛乳、かつお節、玉ネギ、長ネギ、ブドウ、コーヒー・カカオ類(チョコレート・ココアなど)、アルコール、生エビ、生イカ、生タコ、生カニ、生アワビ、骨付きの魚や肉などです。

成長とフード

子猫は生後3-4週齢で乳歯が生え始め、5-6週齢で離乳します。離乳からおおよそ8か月齢までは離乳後の成長スピードの速い時期で、8か月齢からおおよそ10か月齢までは成長スピードがゆるやかになる時期です。

2~7週齢   社会化期。この時期の経験はその猫の性格に影響するといわれています。食べ方、育ち具合、便や尿の健やかさに注意して観察しながら、様々な食感、味わいのフードを与えましょう。

3~4週齢   社会化期。乳歯が生えてきます。離乳の時期です。ウェットフードや十分ふやかしたドライフードを、子猫のそばにおいてください。自ら排尿、排便できるようになります。水も飲めるようになってきます。1日に3~4回以上フードと水の量を確認して与えてください。フードや水は長時間放置せず、確認するごとに食器を洗ってください。

4~7週齢 だんだんと軟らかいフードからより硬い固形フードを食べられるようになります。ドライフードをふやかさなくても食べられるようになります。

6~9週齢   離乳が完了します。離乳を急ぐ必要はありません。急いで離乳を行うと母子にストレスを与えることになります。断乳日を定めたら、その1~2日前に母猫のフードの量を4分の1程度減らしてください。母乳の分泌量を制限するためです。断乳日以降は、子猫を母親から離して育て、乳を子猫に与えないようにしてください。

8週以降齢 週に約100gの割合で成長し続けます。離乳期から成猫期までは、発育のために高栄養なフードが必要です。成長期用と表示されたフードを与えてください。1日量を体重と給与量の表で確かめ、3~4回で全量食べられるように1日量を3分の1から4分の1ずつに分けて、十分な量を食べさせてください。

3~5か月齢      永久歯が生えてきます。

5か月齢     雌で発情行動をする子がでてきます。雄猫は1日に20g、雌猫は11gほど体重が増加します。このころまでに、不妊去勢手術を動物病院でご相談ください。

5~6か月齢      成長が速い時期です。体重測定、給与量の見直し、運動量・体格の確認を1~2週間に1回行い、子猫が十分にフードを食べられるようにしてください。ただし、体重過剰(肥満)の場合は必要に応じフードや運動の量を調整してください。

6か月齢     永久歯に生えかわります。ほとんどの子猫が1日2回の給与に対応できます。フードの温度は室温程度で十分ですが、ウェットフードは腐敗しやすいので、食べ残しを長時間放置しないでください。

8か月齢     去勢をしていない雄では発情行動をする子がでてきます。このじき体長が成猫の80%になります。ゆっくりとした成長になります。

10か月齢以降  ほぼ成猫の体重に達します。筋肉量が増えて成長が12か月ぐらいまで続く子もいます。

まとめ

子猫の時期に大切なことは、よく子猫を観ることです。体重は?環境は?体格は?食事は?よく観察して、その時々に応じた対処をしましょう。子猫用の飼育手帳にメモしましょう。子猫は家庭に慣れること家族になるために一所懸命です。飼い主さんも猫の習慣に慣れるように子猫をよく観て、新しい家族をわかろうとしてください。一瞬の積み重ねが子猫の成長です。子猫の健やかな成長を喜びましょう。

 

執筆者:松井匠作

獣医師、ペット栄養管理士、修士(経営情報学)

略歴:動物病院、地方公共団体、ペットフードメーカー勤務を経て、現在、総合ペットサービス会社で動物病院の管理業務に従事。ペットフード安全管理者としてペットフード(総合栄養食、特別療法食、サプリメント、トリーツ)を開発した。また、ペット用品(シャンプー、トリートメント、玩具など)も開発した。TOKYO VET NUTRITION。