猫の看取り

家族として暮らし、愛おしい存在である猫によって、私たちは幸せな気持ちになり、日々癒されています。

そんな、愛猫との別れはできれば考えたくないものです。

しかし、いずれ別れの時はやってきます。たいていの場合は、私たちが看取ることになります。

私たち飼い主が、彼らの体調や気持ちを察して世話をすることになりますが、

「もっと早く具合が悪いことにきづけばよかった…」

「もっと早く動物病院に連れて行けばこんなことにならなかったかもしれない…」

など、別離した後、後悔の気持ち、罪悪感、自分を責める気持ち(自責の念)を抱かれる方が多いです。

このような気持ちが大きいと、辛く苦しい時間を過ごすことになります。

悲しい、寂しいという気持ちになるのは、自然なことです。そして、その際、納得のいく看取りができると、後悔、罪悪感、自責の念は和らぎます。

では、別れの時をできるだけ納得できる形で迎えるためには、どうしたらよいでしょうか。

どのような形で看取りたいか考えておく

別れの時、「できれば私の腕の中で…」「家で家族が見守る中で…」と考える方は多いと思います。

息を引き取る瞬間を「家族が見守る中で…」と願うのは、自然なことです。

「看取り」は、息を引き取るという現象のみを指すわけではありません。

「それまでどのように過ごしてきたか」

「愛猫のためにどんなことをしてあげられたか」

をあらかじめ想い返しておくことも看取りにおける大切な行為なのです。

飼い主は、

「できる限りの治療を受けさせたい」

「痛みをとる、気持ち悪さをとるなどの、愛猫の苦痛、不快感を軽くする治療を中心にしたい」

「愛猫の生命力にまかせて、家で見守りたい」

「最期は自宅で看取りたい」

なと、様々な想いを抱くと思います。

多くの場合、別れの時が近くなると、動物病院に通うことが増えます。

はじめに、看取りについてご家族とよく話し合いましょう。そして獣医療関係者としっかりとコミュニケーションをとり、双方の想いを共有させておくことが、重要です。

信頼できる友人や専門家への相談も有益な場合があります。

生活の質を考えた工夫

治療に参加することで、動物病院の通院回数を減らし、家にいる時間を長くする

体調を崩すと点滴、注射、投薬が必要になります。

頻繁に動物病院に通わなくてはならないこともありますが、動物病院がとても苦手な猫ちゃんも多く、通院自体がかなりのストレスになることがあります。

そのような場合、自宅で飼い主さんが皮下点滴や投薬ができると、通院回数を減らすことができる場合がありますので、獣医師に相談してみましょう。

家が安心できる場であることを優先する

反対に、家での投薬や食事の介助を強く嫌がる猫ちゃんもいます。

無理をすると、介助を受ける猫ちゃんと飼い主さんの両方に、ストレスが大きくなります。この場合、治療や食事の介助は動物病院に依頼し、猫ちゃんにとって家を安心できる場にするよう心がけましょう。

技術を持ったペットシッターに依頼することで、飼い主さんの負担を減らすこともできます。

食事や環境を工夫する

もともと猫ちゃんは食べ物の味や食感にこだわりが強いのですが、体調が悪くなると、それはより顕著になります。ある日はドライフードを食べても次の日には食べず、ウェットフードを食べるというように日替わりで食べるものが変わることがありますので、一種類の食べ物にこだわらず柔軟に対応できるとよいです。(病気によっては食事内容に制限がありますので、かかりつけ医に相談してください。)

また、長く歩かずに排泄できるよう、トイレの数を増やしたり、安心して休める場所を数カ所確保して頂くと、同居猫がいても安心して体を休めることができます。

想い出づくりをする

愛猫の写真や動画はたくさんあっても、意外と自分と愛猫が一緒に映っている写真は少ないものです。

写真や動画はよい想い出となりますので、自分と愛猫両方が映っている写真を意識して撮ることをお勧めします。

ペット葬祭業者について調べておく

別離の後、気持ちが大きく揺れる中、短期間で葬儀や火葬などについて手配をしなければなりません。

愛猫の旅立ちを後悔なく見届けることも、看取りの一部です。

火葬施設に連れて行って火葬を行う(もしくは自宅まで迎えに来てくれる)施設火葬の他に、移動訪問火葬車による訪問火葬という方法があります。

残念ながら猫の葬儀や火葬に関わる業者すべてが、良質なサービスを行ってくれるとは限らないようです。口コミやかかりつけの動物病院に相談する、愛猫を見送った経験を持つ人に訊くなどして、事前にお願いする業者を調べておくとよいでしょう。

別れの時がきたら…

私たち飼い主は、愛猫との別れという大きな哀しみを抱えながら、旅立ちの準備をすることになります。

できる範囲で、ブラシをかけたり、体の汚れをふいて、なきがらを箱やタオルの上に安置します。傷みを防ぐために、保冷剤で冷やしてあげるとよいでしょう。

つらい時間ではありますが、愛猫と過ごす最後の時間です。想い出をたどりながら、思い切り泣きましょう。

 

執筆者:先崎直子

獣医師、心理カウンセラーとして、ペットの看取り、ペットロスの方へのサポートを行っています。

●資格
獣医師(麻布大学獣医学部獣医学科卒)
一般社団法人 日本グリーフ専門士協会認定 ペットロスカウンセラー/グリーフカウンセラー
一般社団法人 全国心理業連合会認定 プロフェッショナル心理カウンセラー(一般)