犬のごはん【犬の食事と栄養】

古くより、「医食同源」という言が知られています。食事は健康な体作りの第一歩であり、それは犬も人間も同じです。同時に、何を食べるかだけではなく、どのような環境で食べるかも重要です。人間でも、ワイワイと多数で食べるのを好む人もいれば、静かに味わって食べたい人もいます。犬も、性格によって環境を整えてあげることができます。一緒に、フードの選び方、あげかたについて考えましょう。

「総合栄養食」と「間食」

まずは市販のフード選びを見ていきます。

パッケージに「総合栄養食」と書いてあるものを選びましょう。ドッグフードのように見えても、「間食」と書いてある商品や、スープ状でパウチ入りの商品で「間食」と書いてある商品は、オヤツに分類されます。こればかりあげては栄養のバランスは取れませんので、主食は必ず総合栄養食にしてください。原則として、適切量の総合栄養食と水だけで、健康が維持できる計算になっています。ですから、特別な理由がなければ、1日の食事は総合栄養食と水だけでも構いません。しかし、オヤツが役立つ場面も多々あります。例えば、おやつを使って犬と飼い主の間でコミュニケーションを取る事は、しつけや、警戒心を解くために役立ちます。こういった場合は、1日に摂取するカロリーの1〜2割を目安に、主食の総合栄養食をオヤツ(間食)に置き換えてもいいでしょう。また、複数の家族でフードやオヤツをあげる場合、1日にあげている量が把握しにくくなります。その場合は、「主食」と「オヤツ」のタッパーを作り、担当の家族が1日分を計って入れておき、全員がそこから取るようにすると良いでしょう。

フードの選び方の基本

実際のフード選びに移ります。売り場に行くと、総合栄養食と書いてあるフードも、本当にたくさんの種類がたくさんあります。何を上げれば良いか?まず基本をお伝えします。

1歳未満の子犬と妊娠・授乳期の母犬は、「成長期用/パピー用」と書いてフードを給与します。1歳以上で妊娠・授乳していない犬には、「成犬用」と書いてあるものを選びます。まずは、1歳未満か、1歳以上か、そこが大きな分岐点です。この分類は、法律上、必ずパッケージに記載する決まりになっています。お手持ちフードがある方は一度確認してみてください。中には、「全年齢用」と表記されている商品もありますが、これは、生涯で最も栄養要求の高い「成長期用」に合わせて内容を調整しているので、実質的には「成長期用」です。成長期用のフードは、栄養素だけでなくカロリーも高く、食べ過ぎると太りやすいという欠点もありますから、適切な理由がない場合、成犬には「成犬用」の方が良いでしょう。

細かい分類のフード

さらに細かい分類のフードについて説明します。

「シニア」など、特定の年齢向け、犬種別、避妊去勢済み用など、用途に指定がある商品もあります。「中身がどう違うの?」、「チワワだけれど、ポメラニアン用をあげた方がいいの?」と疑問が湧きます。これらの商品の背景としては、多くの場合、「ダックスは椎間板ヘルニアが多いからグルコサミン、コンドロイチンを添加したフードにしよう」、「避妊去勢をしたら太りやすくなるからカロリーを抑えたフードにしよう」と言った風に、特定の飼い主さんと犬のニーズに合わせて作られていることが多いようです。しかし、個別の犬で考えると、ダックスの全頭がヘルニアになるわけでもなく、避妊去勢後にフードを変えても、たくさん食べれば太ります。飼い主さんも、なぜ「○○用」なのかを理解し、納得して使う方が、商品の特徴をより健康に活かすことができるはずです。パッケージを読んでもわからない場合は、かかりつけの獣医に相談しても良いでしょう。製品設計に納得、健康に役立つことを念頭に選ぶと、より安心です。

フードの与え方

最後に、フードのあげかたを紹介します。

多くの家庭で、ドライフードを1日に2〜3回に分けてあげることが多いようですが、ウェットフード(缶詰)しか食べない犬も見かけます。できればドライとウェットの両方を食べるように子犬の頃から慣らすのが理想です。なぜなら、災害時や、流通の障害による欠品、商品の廃番など、いつものフードが手に入らなくなる可能性もあるからです。また、ウェットフードは1日に必要なカロリーと水分を同時に取ることができる設計になっていますので、災害時の断水時でも、手元にあれば安心です。

飼い主さんの中には、ウェットの方が美味しい=出せば食べてくれる、と思われるケースもありますが、必ずしもそうではありません。人間でも、乾いたおせんべいに慣れている人に、いきなり、おせんべいを雑炊仕立てに煮込んで出しても、断られることもあるでしょう。犬も同じです。普段から、ドライとウェットの両方を食べられるように練習すると良いでしょう。

また、食事のタイミングは、「食いしん坊さん」と「食が細いコ」で分けて考えます。食いしん坊さんの場合、食事を予期して吠えて困るケースがあります。特に、早朝から吠えると、ご近所が気になりますね。食いしん坊さんは、食事前にはイライラしてしまいます。この場合、飼い主さんの気が向いたときに、前出のタッパーから給与します。あえて時間を決めないことで、犬のイライラが減ります。早朝の吠えが気になる場合は、最後のフードを、夜寝る直前にしてみてください。一方、食が細い場合、お散歩の直後で気分が乗っているときにあげる、飼い主さんの手からあげてみる、静かな部屋で、落ち着いて食べてもらうなどの工夫もできます。レンジなどで軽く温めることも有効です。どうしても食べない、痩せてきているなどの場合は、念のために、獣医師に相談をお勧めします。

どうでしょうか。新しい発見があれば、ぜひ試してみてください。そして、健康な身体で長生きを目指しましょう!

 

 

執筆者:中尾るり子
獣医師
略歴:日本大学農獣医学部獣医学科卒業、アメリカ・ワシントン州立大学にて博士(栄養学)を取得。帰国後、動物病院勤務、大学教員、ペットフードメーカー勤務を経て、現在は内閣府食品安全委員会にて非常勤の勤務の傍ら、翻訳、通訳、栄養関連の執筆活動を行う。