高齢犬の日常ケアの注意点

高齢期はいつから?

犬では一般的に7歳くらいからを高齢期と呼んでいますが、元気なご長寿犬が増えました。健康に不安を感じ始める年齢も遅くなり喜ばしいことですが、身体機能のピークは5,6歳と言われ、7歳くらいからは徐々に衰えていく段階に入っています。高齢期に向けたケアは7歳くらいから始めても早すぎることはありません。さっそくシニアケアを始めましょう。

犬にも起こっているフレイル

フレイルとは、高齢者の老化によって起こる不健康な状態を改善するために提唱された言葉です。

年齢と共に活動量が減り、エネルギーの必要量が減れば食事の量も減り、活動量と栄養が減れば体重(筋肉量)が減り、筋肉量の減少で活動量がさらに減り、という負の循環で身体が虚弱になっていくことです。フレイルが進行すると日常生活にサポートが必要になりますが、適切な日常ケアをすることで予防することができます。

犬でも年齢と共にエネルギー必要量は減り、食事量が減ってお尻周りなどの筋肉がやせてきます。やがて筋力が低下し足腰の不安など身体機能の低下が見られ活動量の低下、運動量低下…と負の循環で虚弱が進みます。

健康の基礎チェック

持病のコントロール

高齢になると糖尿病や高血圧、腎臓病、心臓病、呼吸器疾患、整形外科的疾患などの慢性疾患を抱えていることが少なくありません。まずしっかりと持病をコントロールすることが必要です。持病をコントロールしないままのケアはかえってフレイルを進行させてしまうことにもなりかねません。

運動と栄養

筋肉量を維持するためには適度な運動が必要です。

お散歩は愛犬と一緒にできる日常ケアです。人間も10分前後の運動を毎日継続することで健康増進効果が認められています。立っているだけ座っているだけの姿勢維持も筋トレになっているので食事の時間なども運動の時間になります。横になってばかりにならないように動作も見直しましょう。また運動と同時にバランスの取れた栄養も必要です。低栄養状態では筋肉量は減少してしまいます。

感染症

高齢犬では感染症に対する免疫力も低下していきます。可能な感染症対策はしておきましょう。

予防接種
  • ワクチン
    • 狂犬病ワクチン
    • 混合ワクチン
  • フィラリア症予防

 

予防接種は健康状態が良いことを獣医師が確認してから接種します。高齢だから、と自己判断せずにぜひ獣医師にご相談ください。

口腔ケア・歯周病ケア

歯周病菌は体内に入って持病を悪化させる原因ともなります。

歯周病は噛む・飲み込むなどの口腔機能にも影響し低栄養に関係します。

歯石や歯肉炎があったりグラグラの歯があるならば治療をしておきましょう。そして治療後のケアもしていきましょう。

生活習慣の見直し

起きる時間、食事の時間、散歩や排せつの時間、昼寝や寝る時間など一日の生活を振り返ってみましょう。併せてご家族のお出かけや帰宅時間も入れて考えてみてください。犬との暮らしは定時の行動が多いですが、若い時と比べてどんな変化があるでしょうか?睡眠時間が長くなった、お散歩の時間が短くなったということで活動時間が縮小されていることはありませんか?食事に対する意欲はどうでしょう?活動量が減ると筋力の低下を招きさまざまな意欲を低下させます。嫌がるからやらせない、の生活はますます生活機能を低下させてしまいます。

衰えているところに配慮しながら適度な刺激を与えて、なにをしたいか欲求を引き出して、抑揚のある生活習慣にする見直しをしてみてください。

日常のチェック

水分ケア

体の水分量は年齢と共に減少します。活動量の低下で飲水量も減りますが筋肉量の低下などで体内にとどめておく力や体表からの喪失もあります。

こまめな水分補給やお部屋の湿度の調整、保湿などのスキンケアをしましょう。

1日の必要飲水量は体重1㎏あたり約100mlが目安です。(体調により獣医師に相談しましょう)

体温調整

体の水分量が減ると代謝や循環の衰えで体温調節が苦手になります。温度感覚が衰えて寒暖を感じにくくなってくることもあります。空調の温度調整だけで安心せずに愛犬の体も確認してください。足先だけが冷たくなっていることはよくあることです。血行を良くすることが大切です。動かしやすい体を維持できるように足を温めてからお散歩へ出たりマッサージなどで体の隅々まで血行が良くなるようにしてあげましょう。

室内の快適な温湿度

温度:25~26度
湿度:50%前後

行動観察

日常の行動の観察はご家族だからできることです。

おうちでの様子、お散歩の歩き方、食事やトイレの様子など観察してください。

あれっ?という違和感はとても大切です。

すぐの受診に迷ったら携帯で写真や動画を撮ったりカレンダーにメモをしておくなど記録をしておきましょう。

記録があると判断も相談もしやすくなります。

定期的にトリミングに行くならばトリマーさんにも見てもらいましょう。

愛犬を知っている専門家のアドバイスは安楽への近道です。時には毎日見ているご家族よりも変化に気づきやすいこともあります。

 

執筆者:松本晃子
獣医師
ペットホームケアえるそる:犬猫訪問鍼灸・介護リハビリ 訪問獣医師
ペットケアサービスLet’s(高齢犬デイケアサービス&犬の幼稚園):デイケア担当 非常勤
赤坂動物病院:シニアケア担当 非常勤
日本獣医生命科学大学卒、獣医中医師・獣医推拿整体師、
獣医保健ソーシャルワーカー®、横浜市動物適正飼育推進員