高齢犬の栄養と療法食

あなたのご家庭の犬は「高齢」ですか?

何歳から「高齢犬用・シニア用」のフードを使えば良いのでしょう?

実は、厳密に「高齢期」とされる犬の年齢は法律で決まっているわけではありません。おおよそ、大型犬では5~6歳、小型〜中型犬では7~8歳以上を高齢と呼ぶことが多いのですが、人間でいうと40歳代後半から50歳代前半に相当します。あまりお年寄りというイメージの年齢ではありません。いきなり、「うちの子はシニアだから」と言うと、犬もショックかもしれませんね。「成人病に十分、気をつけたい歳」と捉えた方が無難です。実際、人間ではまだ働き盛りの年代。しかし、持病の薬を飲み始めたり、日々の話題に「健康」が上がり始める時期です。

シニア期に気をつけたい病気

犬のシニア期で気をつけたい病気としては、心臓病、腎臓病、関節炎などがあげられます。

心臓病は、特に、心臓内で血液の逆流を防ぐ「弁」の機能が低下する、弁膜疾患という病気が多くみられます。この病気は小型犬で特に多く、お散歩で息があがる、夜中に咳(ケッ、ケッ、と空嘔吐のような音を出します)をするようであれば要注意です。心臓が悪いと腎臓に負担がかかり、腎臓病も併発することがあります。また、最近は体重過多の犬を多く見かけますが、体重が重いと関節に負担がかかり、関節炎の割合が高くなるだけでなく、発症の年齢も早まることが知られています。シニア期の犬では年に1回は動物病院でシニア期向けの健康診断を受けると良いでしょう。年1回は多いと思われるかもしれませんが、犬の1年は人間のおよそ4年ですから、そう考えると決して多い回数ではありません。

フードの種類と給与方法

フードの種類と給与方法について、見ていきます。

まずフードの種類ですが、市販の製品でも、「シニア用」と書いてあるものを選ぶと良いでしょう。心臓、腎臓、体重、関節に配慮して、塩分控えめ、カロリー控えめのような工夫、また関節に配慮した成分を含んでいるものもあります。今までのフードから、お腹が驚かないように1週間程度かけて切り替えてあげると良いでしょう。

また、10歳を超えるような年齢になると、徐々に視覚、聴覚、嗅覚が衰えてくることがあります。フードがどこにあるか迷わないよう、フードボールの位置を決めましょう。電子レンジで軽く温めるなど、匂いがわかりやすいような工夫もオススメです。また、聴覚が落ちている分、声かけと同時に体を撫でてあげ、刺激を与え、犬が安心感を持てるように工夫することも合わせて行います。高齢になると喉の渇きを感じにくくなりますので、積極的に水を飲ませ、1日に何回か水は新鮮なものに変えてあげると良いでしょう。

体重管理も、関節炎の予防・管理のために、引き続き気をつけていきたい部分です。一度、関節炎になると、体重が病気の管理を難しくします。また、関節が痛いので、運動できない。すなわち、カロリー消費が減り、さらに太りやすいという悪循環に陥ります。関節が健康であれば、良いチャンスと思って適正な体重コントロールを心がけてください。

療法食の与え方

何かしらの病気が見つかった場合、動物病院で療法食を勧められることがあります。もしこういった療法食をあげる場合は、必ず獣医師が指定したメーカー・製品をあげるようにしてください。雑誌やインターネットの情報で、同じような病気対応の製品が多くのメーカーから出ていることに気づくかもしれませんが、病気に対応する栄養組成の仕組みや、病気のどの進行度に適しているかなど、細かい部分では違います。

また、療法食の栄養組成と薬の組み合わせを考えた場合、おすすめの製品が変わることもあります。パッケージやメーカーのサイトには、法律の規制上、診断や治療に関する情報は書けないことになっています。どうしても、ネット情報や飼い主同士の情報交換に目が行くことも多いかと思います。

しかし、個々の犬の病状は違いますから、ネットの匿名情報に頼るよりは、病気の治療の助けになるよう、主治医の獣医師と相談し、適切な製品をあげた方がより賢い判断ではないでしょうか。

薬の与え方

さて、最後に飼い主さんからよくある質問ですが、薬をどうやってあげれば良いか、という問題です。

ピル状や粉状の薬をそのまま飲んでくれれば良いですが、嫌がる犬も多いでしょう。またそれが毎日のこととなると、飼い主さんも疲弊してしまいます。一般的な薬であれば、チーズやハム、おやつに包んであげているという飼い主さんが多い印象です。ただしこの方法が推奨されないのが、心臓病の薬です。

心臓病の犬は、塩分が過剰にならないように栄養指導をされていることが多いですが、ハムやチーズは高塩分なので避けたい食品の一つです。

ではどうすれば良いか?

例えば、塩分が低く、オヤツや薬をあげる手段として使えるのが、野菜、フルーツ、炊飯米、塩なしで茹でたパスタなどの食品です。実際に、オリーブオイルで炒めたズッキーニや、メロンの角切りの中に薬を埋め込んで投与しているという飼い主さんもいらっしゃいます。

私も、昔、飼っていた犬はトマトが大好きで、心臓のお薬もトマトに埋めると飲んでくれていました。工夫次第ですので、諦めずに方法を探してみてください。担当獣医師や動物看護師に相談してみても良いでしょう。

何歳になっても、食事は一日の楽しみであることは変わりません。ぜひ工夫をして、愛犬にいつまでも美味しく楽しく食事をしてもらえることを願います。

 

 

執筆者:中尾るり子
獣医師
略歴:日本大学農獣医学部獣医学科卒業、アメリカ・ワシントン州立大学にて博士(栄養学)を取得。帰国後、動物病院勤務、大学教員、ペットフードメーカー勤務を経て、現在は内閣府食品安全委員会にて非常勤の勤務の傍ら、翻訳、通訳、栄養関連の執筆活動を行う。