お薬による問題行動の治療

一緒に暮らすのが苦しく辛いほど、愛犬が咬んだり吠えたりひどく攻撃的だったり、自宅に帰るのが恐怖に感じるほど愛猫が襲ってきたり、いつもトイレの外で排泄をして家中ひどく臭くなってるような場合、飼い主さんはなんとかこの行動を止めたいと願うと思います。

動物の困った行動には、環境を改善したり、しつけやトレーニングをツールとして解決に導くことが一般的ですが、お薬を使う「薬物療法」という方法もあります。

行動問題に「お薬を使って治療する」と聞くと、一日中ぼーっとさせてしまうのではないか、性格が変わってしまうのではないか、笑顔が見られなくなるのではないかと心配される方も多くいらっしゃいます。

でも問題行動の治療薬は決してそんな怖い薬ではありません。

問題行動の多くは「不安や恐怖、葛藤」という気持ちから

犬の攻撃行動や過剰に吠えて止まらなくなってしまう行動、猫の攻撃行動や困った排泄など、飼い主さんの生活まで脅かされるような問題行動は、「不安や恐怖、葛藤という気持ち」から現れていることがほとんどです。

また、人の PTSD(心的外傷後ストレス障害) や不安障害、パニック障害のように「脳の機能障害」を起こして、人との生活がうまくできなくなるような行動をしている場合があります。動物にも不安障害、パニック障害、 PTSD、強迫性障害と類似するような病気や発達障害に近いような病気があり、多くの場合は脳の機能障害があるために過剰に攻撃的になったり、過剰に吠えたり、排泄がうまくできないような行動が出てきています。

行動問題に使う薬は「導火線を長くする」ような役割

人でも動物でも、うまく働かなくなった脳に「適度にブレーキをかける」ような役割のお薬があります。

獣医師が問題行動の治療のために使う薬は、動物を眠らせてしまったり、ぼーっとしてそのコらしさがなくなってしまうような薬ではなく、問題となる行動が出てくるまでの「導火線」を長くするような役割があります。あるいは、パニックになってしまうまでの時間を少し長くできるので、そこに「行動修正」を入れられるようにしてくれるお薬となります。行動診療のできる獣医師、あるいは行動診療に詳しい獣医師にご相談ください。

行動修正とは、人で言う認知行動療法に似ているもので、過剰に不安になったり、パニックになったり、何かに執着したりする行動の代わりに、リラックスできる行動をこちらが伝え、そのリラックスした行動に対し報酬(ごほうび)を与えて動物がリラックス行動を覚えていけるようにするようなものをいいます。

脳が過剰に刺激に反応して、外の音などが全く聞こえない状態になってしまうと、行動修正をやりたくてもやれない状態になります。そんな時にお薬で少し脳に余裕を持たせて行動修正を始められるようになると、動物が快方に向かうことになります。

お薬は行動修正や環境改善と一緒に使う

薬物療法だけで問題行動を治療することは通常ありません。必ず行動修正や環境修正といった動物の住む環境を改善し、リラックスできる方法を教えることを行い、最終的にはお薬を使用しなくてもいいようにすることもあります。薬物療法は行動修正に入るための入り口を作ってくれる役割がある、パニックになるまでの脳の導火線を伸ばしてくれる役割がある、そんなふうに考えていただけたらと思います。

専門の獣医師に相談しましょう

獣医師が問題行動の治療で使うお薬で動物の性格は変えられませんし変わることはありません。その動物の良いところを残した状態で、お薬をうまく使って行動修正や環境修正と一緒に問題行動を治療していきます。

「薬物療法」は獣医師が行います。行動診療科のある動物病院に相談してください。

 

外部リンク

日本獣医動物行動研究会のリストが開きます。

執筆者:事務局