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あなたは、「犬派?猫派?」と質問されたことはありませんか?
獣医の仕事をしていると、よく聞かれます。「猫派」と答える人の理由は、「程よい距離感があり、いつもべったりでないところが良い」、「気まぐれなところも好き」と、ちょっとツンデレな性格を挙げられる場合もあります。決して全ての猫がそうではないですが、猫は気ままで、と思っている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、これはあくまでも人間からの見え方で、そう見える理由も様々と推察されています。ここでは、特に猫の栄養要求と食生活、食事行動について考えてみましょう。
猫は小さな犬ではない
まず、前提条件は、「猫は、小さな犬ではない」ということで、具体的な違いを理解すると猫の気持ちも分かりやすくなります。
犬と猫では、人と暮らすようになった歴史が、そもそも違います。その違いが、食性の違いにも反映されています。
犬は約1万年前に人と暮らすようになったと言われています。当時は狩猟時代で、人間の狩のおこぼれを貰うわけですから、犬も当然、肉を中心とした食生活でした。その後、農耕文化が始まり、人間の主食が米・小麦中心となると、犬も、炭水化物を消化できる体質になりました。
そして、群れのリーダー=食べ物を確保する飼い主、に忠実であるという性質は現在でも残っています。飼い主と同じ食事回数、すなわち1日2〜3回に適応しました。現在の家庭飼育犬は、肉も炭水化物も消化できる「雑食」で、リーダーの人間に忠実でありたいという本能を持ち、1日2〜3回の食事をする動物ということになります。
一方、猫が人と暮らすようになったのは犬より遅いと言われていますが、少なくともエジプト時代には猫は人の周りにいたようです。倉庫庫の穀物をネズミなどの小型動物から守るため、狩猟能力が高く、かつ、穀物(炭水化物)は食べないという猫の性質は重宝されたようです。
あくまでもネズミなどの小型動物を主食としていたため、「肉食」の食性を残しており、穀倉の番人として人間の生活範囲内でも重宝されました。猫は、自分で狩をしますので、犬ほど人間にべったりしなくても食事を確保できます。これが、「気まま」と言われる理由かもしれません。
成猫の1日必要カロリーは240kcal程度で、ハツカネズミ8匹分に相当します。そして、いつもハツカネズミのような大物が獲れるわけではありませんから、様々な獲物を1日10回程度獲る食事生活が、野生猫の一般です。
飼い主さんから、「飼っている猫が、だらだら食べて困る」と相談を受けることがありますが、実は、それが野性猫としては正しい行動なのです。猫の胃は犬よりも小さめで、一度にたくさんは消化できません。1日分を決め、こまめに出してあげた方が食べやすい猫もいます。
猫へのフードのあげかた4つのポイント
猫への、フードの上げ方のポイントを4つ、ご紹介します。
「キャットフード」を選ぶ
当たり前に聞こえますが、猫用だから「キャットフード」なのであって、「ドッグフード」は代用となりません。猫は犬よりも炭水化物を消化する能力が低いので、キャットフードは炭水化物が控えめです。また、猫特有の栄養要求として、タウリンやビタミンAを給与しなければならないという基準もあります。いずれもドッグフードでは満たされていない可能性があります。必ず「キャットフード」と表示のあるものを選びましょう。離乳〜1歳未満の子猫と、妊娠授乳期の母猫は「成長期用」、それ以外の成猫は「成猫用」を選びます。
薄い皿で給与する
猫は、ヒゲが汚れることを嫌います。水もフードも、平たい皿からあげたほうが食べやすいようです。例えば、ウェットフードをあげる場合は、回転すし店で見るような皿にスプーンでフードを平べったく伸ばしてあげても良いでしょう。猫用のフードボールも市販されており、薄型で、舌で掬ってもフードがずれないような工夫がされています。こういったものを使っても良いでしょう。
水の飲ませ方を工夫する
猫は、元来、水を飲む癖を持っていません。野生では、ネズミのような獲物には水分がたくさん含まれており、獲物を食べるだけで1日必要な水分のおおよそを取れてしまうため、努力して水を飲む必要がありませんでした。しかし、現在の飼い猫のほとんどはドライフードを食べています。ドライフードの水分含有量はネズミのような獲物に比べると8分の1程度。つまり、ドライフードが主食の場合、大部分を水分を、「液体の水」として飲まなければなりません。慣れない猫は苦労するようです。人間でも、大人が1日2Lの水を飲むのは大変です。そういった場合、野菜や果物、ヨーグルトなどと組み合わせると、水分を摂りやすくなります。猫も同じように、缶詰フードを使うなど、食事からの水分摂取も組み合わせてあげるという方法もあります。特に尿石症を繰り返すような猫は、再発防止のために水分摂取が何よりも重要です。
「肉」より「キャットフード」を給与
猫は肉食と言いましたが、肉ばかり給与すれば良いとういうわけではありません。猫は、水を飲むのが苦手で、肉食という性質上、高たんぱく質食で起こりやすい「尿路結石症」や「慢性腎臓病」といった病気にかかりやすい動物です。水分不足やタンパク質の過給は、こういった病気のリスクを高めることになります。そのためキャットフードは、腎臓に負担を掛けにくい程度のタンパク質量と消化できる範囲の炭水化物を上手く取り入れた栄養バランスに設計されています。最近、猫が長寿になった一因としても、良い栄養管理ができるようになったからという理由も挙げられます。ぜひキャットフードを選びましょう。
このようなコツを上手に利用して、長く幸せな人生になるように工夫してあげてください。
●参考文献
Small Animal Clinical Nutrition, 5th edition, Mark Morris Institute
Chapter 19 Introduction to Feeding Normal Cats. p. 361-372
https://www.markmorrisinstitute.org/sacn5_download.html. Accessed on December 19, 2021.
略歴:日本大学農獣医学部獣医学科卒業、アメリカ・ワシントン州立大学にて博士(栄養学)を取得。帰国後、動物病院勤務、大学教員、ペットフードメーカー勤務を経て、現在は内閣府食品安全委員会にて非常勤の勤務の傍ら、翻訳、通訳、栄養関連の執筆活動を行う。