犬の看取り

家族として暮らし、愛おしい存在である犬によって、私たちは幸せな気持ちになり、日々癒されています。

そんな、愛犬との別れはできれば考えたくないものです。

しかし、いずれ別れの時はやってきます。たいていの場合は、私たちが看取ることになります。

私たち飼い主が、彼らの体調や気持ちを察して世話をすることになりますが、

「もっと早く具合が悪いことにきづけばよかった…」

「もっと早く動物病院に連れて行けばこんなことにならなかったかもしれない…」

など、別離した後、後悔の気持ち、罪悪感、自分を責める気持ち(自責の念)を抱かれる方が多いです。

このような気持ちが大きいと、辛く苦しい時間を過ごすことになります。

悲しい、寂しいという気持ちになるのは、自然なことです。そして、その際、納得のいく看取りができると、後悔、罪悪感、自責の念は和らぎます。

では、別れの時をできるだけ納得できる形で迎えるためには、どうしたらよいでしょうか。

どのような形で看取りたいか考えておく

別れの時、「できれば私の腕の中で…」「家で家族が見守る中で…」と考える方は多いと思います。

息を引き取る瞬間を「家族が見守る中で…」と願うのは、自然なことです。

「看取り」は、息を引き取るという現象のみを指すわけではありません。

「それまでどのように過ごしてきたか」

「愛犬のためにどんなことをしてあげられたか」

をあらかじめ想い返しておくことも、看取りにおける大切な行為なのです。

飼い主は、

「できる限りの治療を受けさせたい」

「痛みをとる、気持ち悪さをとるなどの、愛犬の苦痛、不快感を軽くする治療を中心にしたい」

「愛犬の生命力にまかせて、家で見守りたい」

「最期は自宅で看取りたい」

など、様々な想いを抱くと思います。

多くの場合、別れの時が近くなると、動物病院に通うことが増えます。

はじめに、看取りについてご家族とよく話し合いましょう。そして獣医療関係者としっかりとコミュニケーションをとり、双方の想いを共有させておくことが、重要です。

信頼できる友人や専門家への相談も有益な場合があります。

その子らしさを考える

少し考えてみてください。愛犬が「その子らしく生きる」とはどういうことだと思いますか?

その犬の好きなこと、苦手なことを考えると、わかりやすいかもしれません。

例えば、

  • 食べることが好きな犬の場合、手作り食を作るなどして、できるだけ、美味しくご飯を食べてもらえる工夫をする(持病で食事制限が必要な場合は、かかりつけ医に相談してください)
  • 身体を動かすことが好きな犬の場合、足が不自由になっても、車イスを使ってできるだけ自分の足で散歩できるようにする
  • 甘えんぼで、何より家族と一緒にいるのが好きな子の場合、できるだけ一緒に過ごす時間を作り、かまってあげる

痛みに対して極端に弱い子の場合は、治療を受ける上で、

  • できるだけ痛みを伴わない治療を選択する
  • 痛み止めで痛みをコントロールする

ことも、その子らしくいられることにつながります。

「その子らしさを大切にし、できるだけのことをしてあげられた」

このように思えることも、納得のいく看取りにつながります。

無理せず介護する

犬が高齢になったり病気を抱えると、頻繁な通院、食事、排せつ、寝がえりの介助などが必要になることがあります。このような介護は1人で抱え込むと、飼い主自身がまいってしまうこともあります。

飼い主の心身のつらさは、敏感に愛犬に伝わり、犬の症状が悪化することもあるのです。家族に協力してもらう、老犬介護をしているペットシッターにサポートを依頼するなど、無理の少ない介護を心がけましょう。

想い出づくりをする

愛犬の写真や動画はたくさんあっても、意外と自分と愛犬が一緒に映っている写真は少ないものです。

写真や動画はよい想い出となりますので、自分と愛犬両方が映っている写真を意識して撮ることをお勧めします。

体調にもよりますが、愛犬が好きな場所に連れて行ったり、好きな犬仲間に会わせてあげることも、

想い出づくりになることが考えられます。

ペット葬祭業者について調べておく

別離の後、気持ちが大きく揺れる中、短期間で葬儀や火葬などについて手配をしなければなりません。

愛犬の旅立ちを後悔なく見届けることも、看取りの一部です。

火葬施設に連れて行って火葬を行う(もしくは自宅まで迎えに来てくれる)施設火葬の他に、移動訪問火葬車による訪問火葬という方法があります。

残念ながら犬の葬儀や火葬に関わる業者すべてが、良質なサービスを行ってくれるとは限らないようです。口コミやかかりつけの動物病院に相談する、愛犬を見送った経験を持つ人に訊くなどして、事前にお願いする業者を調べておくとよいでしょう。

また、愛犬が亡くなった場合、犬の登録をしている市区町村に、狂犬病予防法に基づき30日以内に届出をしなければなりません。

お住まいの市区町村のホームページをご確認ください。

別れの時がきたら…

私たち飼い主は、愛犬との別れという大きな哀しみを抱えながら、旅立ちの準備をすることになります。

できる範囲で、ブラシをかけたり、体の汚れをふいて、なきがらを箱やタオルの上に安置します。傷みを防ぐために、保冷剤で冷やしてあげるとよいでしょう。

つらい時間ではありますが、愛犬と過ごす最後の時間です。想い出をたどりながら、思い切り泣きましょう。

 

執筆者:先崎直子

獣医師、心理カウンセラーとして、ペットの看取り、ペットロスの方へのサポートを行っています。

●資格
獣医師(麻布大学獣医学部獣医学科卒)
一般社団法人 日本グリーフ専門士協会認定 ペットロスカウンセラー/グリーフカウンセラー
一般社団法人 全国心理業連合会認定 プロフェッショナル心理カウンセラー(一般)