高齢犬の認知症

認知症とは

犬の認知症は、高齢性認知機能不全症候群というのが正式名称で、脳の中の記憶や学習、理解、判断をする領域の働きが、病的に変化した状態です。

老化による生理的な変化でも働きは低下していきますが、限度を超えると認知症となります。持病やケガや過剰なストレスなどによっても症候が現れます。

機能が低下する領域や程度によって現れる症状は様々ですが、理解力や判断力などの低下で自立した日常生活を送ることが難しくなるのが認知症です。

9歳以上の高齢犬で発症し、年齢と共に発症率が高くなります。

日本では柴犬に多いとされていますが、どの犬種でも発症します。

認知症の主な症状

認知症の主な症状は、

  • 見当識障害(Disorientation)
  • 周囲との関わり方の変化(Interaction changes)
  • 睡眠サイクルの変化(Sleep-wake cycle)
  • 学習・記憶力の低下(House-training is forgotten)
  • 活動性の変化(Activity changes)
  • 不安(Anxiety)

に分類されます。

学習や記憶力、理解力の低下が脳の機能低下で認知症の中核ですが、不安や混乱などから生じる、怒りやすかったり怖がったり無関心になるというような、行動や心理状態も認知症の症候です。

認知症の進行には身体症状と心理症状、行動症状が相互に複雑に関係します。

早めに気づけば、不安な心理状態を長引かせることなく、不安から起こる行動症状の予防や緩和にもつながります。

初期段階では、忘れっぽくなり困っていることがあるのだと思います。注意深く観察すると、あくびをしたりぶるぶるっと身震いするカーミングシグナルが出ていることがあります。

日常の習慣や行動の変化が気になったら、獣医師に相談しましょう。

認知症の行動変化は認知症特有の行動ではなく、例えば目や耳などの感覚器の機能低下でも怒りっぽくなったり、ウロウロと歩き回ったり意欲がなくなって寝てばかりになるということもあります。病気があれば治療によって行動が改善する可能性もあります。

動物病院へ連れていくことが難しい場合は、まずは動画のみでご相談されてもよいでしょう。

気になる行動の時に、全身が入るように撮影しましょう。(事前に相談先の獣医師に必ずお問合せください。)

具体的な行動には以下のようなものがあります。これらは認知機能不全のチェック項目です。一つでも気になるものがあれば獣医師に相談しましょう。

  • 狭いところに入りたがり、行き止まると後退できない
  • 視力や聴力が衰え、異常ににおいをかぐ
  • ぼーっと立っていることがある
  • 部屋の中を徘徊する
  • 呼びかけても無反応
  • 飼い主のことがわからない
  • 夜中や明け方に意味もなく鳴き続ける
  • 不適切な場所での排せつや失禁
  • 学習していた行動や習慣的な行動ができなくなる
  • とぼとぼとうつむいて歩く

予防と対策

認知症はまだ未知が多く、予防や治療法は確立していませんが、脳の機能低下を予防することが認知症予防となります。

サプリメントや食餌

脳の機能低下には、抗酸化力の低下が関係すると言われています。抗酸化物質を含むフードやサプリメントは予防に役立つと考えられます。

脳トレ

理解力の低下が心理状態を悪化させます。知っていることできることを増やしておくことで、選択肢が増え不安軽減に役立ちます。

ハンドサインでコミュニケーションを取れるようにしたり、音やにおいをつかってゲームをしたり、ご家族の声掛けや体に触れることも脳への刺激でトレーニングになります。

目と目が合わず呼びかけに応じなくなっても、においや肌感覚で感じています。たくさんコミュニケーションを取ることが脳トレになります。

生活リズム改善対策

光の感受性が衰えていく中で、日中薄暗い屋内で眠って過ごし、夕方屋内に明かりが灯ることが、昼夜逆転のプロセスを作っていることがあります。

朝の日光浴は、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を促します。日中明るい所で過ごさせ、夜間の室内照度を下げてあげることも大切です。

薬物治療

不安症状が強く出る場合は、薬を使うことも必要です。

頑張りすぎずに、人との暮らしが健康に保たれることを最優先に考えましょう。

行動症状、心理症状は、それぞれに違います。獣医師に早めに相談することは、不安な心理状態からさらに引き起こされる、行動症状の予防や緩和につながります。

認知症と診断されたら

認知症の症状や進行状況はそれぞれです。ご家庭の事情もみな異なり、できることはさまざまです。

飼い主にできることは、今日をよりよい一日にすることと、少しだけ先回りをした明日の準備。明日のことを考え、備えることは飼い主にしかできません。

愛犬の自立した生活が難しくなれば、ご家族の生活にも少なからず影響が出てきますが、愛犬はご家族を縛りつけることを望んではいません。少し自分のプライベートな時間も欲しいと思っているかもしれません。早め早めに動物病院やペットシッターや介護士などへ相談して力を借りましょう。愛犬との時間を大切にお過ごしください。

 

執筆者:松本晃子
獣医師
ペットホームケアえるそる:犬猫訪問鍼灸・介護リハビリ 訪問獣医師
ペットケアサービスLet’s(高齢犬デイケアサービス&犬の幼稚園):デイケア担当 非常勤
赤坂動物病院:シニアケア担当 非常勤
日本獣医生命科学大学卒、獣医中医師・獣医推拿整体師、
獣医保健ソーシャルワーカー®、横浜市動物適正飼育推進員