犬の品種①柴犬

日本の天然記念物である柴犬。立ち耳と巻き尾のりりしい姿に憧れて、「犬を飼うなら柴犬」と決めている人もいるでしょう。家族に一途な忠犬の代名詞ですが、自立心の強さから一筋縄ではいかない部分もあります。迎えた後で困らないために、柴犬の特徴やしつけについて確認することが重要です。

品種の由来

柴犬のルーツとなった犬は、日本人の祖先と共にユーラシア大陸から日本列島に移動してきました。日本最古の犬の骨は、縄文時代の遺跡から埋葬された状態で見つかり、番犬や猟犬、そして家族としても大切な存在だったことがうかがえます。弥生時代以降は活躍の場が少なくなったものの、猟犬や里犬(村や町で養っていた犬)として身近な存在であり続けました。

明治維新を境に欧米の犬が輸入され、洋犬との交配によって頭数が減少していきました。危機感を抱いた愛好家による保護活動が実を結び、1937年には国の天然記念物に指定され、日本犬の中でも安定した人気を保っています。

柴犬の特徴

柴犬は日本犬唯一の小型犬です。ピンと立った小ぶりな耳、目尻が上がった三角形の目、力強いくるりとした巻き尾がトレードマークです。中には鎌のような形の差し尾の柴犬もいます。進化学的にオオカミに最も近く、原始的な犬の特徴を色濃く残した野生味のある品種です。

「そっけない」とも感じることもある性格は日本犬の特徴でもある自立心の強さの表れでしょう。一方的にかわいがるような接し方よりも適度な距離を保った大人の付き合いが向いています。

犬種標準
  • 原産国 日本
  • 体高 オス:39.5cm(38cm〜41cmの間)/メス:36.5cm(35cm〜38cmの間)
  • 体重 オス:9〜11kgくらい/メス:7〜9kgくらい
  • 毛色 赤、黒、胡麻、白

※豆柴と呼ばれる犬は確立した品種ではないので、迎える前に健全性を確認しましょう。

柴犬のしつけ

適切な社会化トレーニング

柴犬は警戒心が強いため、子犬のころからさまざまな物事を経験して順応力を身につける「社会化トレーニング」を行います。接触や拘束も苦手なので、特に子犬のときに人が触ったり抱き上げたりする練習が重要です。生後4カ月ごろまでの「社会化期」がさまざまな刺激に順応させるのに最適な時期ですが、新しい刺激やあまり出会わない刺激に対してゆっくり慣れさせる練習は生涯にわたって行いましょう。柴犬の行動特性に詳しいドッグトレーナーなどの専門家に相談するのも良い方法です。

攻撃性を引き出さない

忠犬のイメージがあるものの、ちょっと神経質で怖がりの側面を持つので、びっくりしたり混乱したりすると家族や子ども、他犬への攻撃性が出やすい傾向があります。来客や家の前の通行人に対しての警戒や警戒吠えにも要注意です。家族の接し方や距離感にこだわりがあるタイプなので、いきなりなでたり抱きついたりせず、たとえばなでるのは犬が望んでいるときにしましょう。目つきが険しくなったり口元に力が入ったり、ちょっと動きを止めたりしたら「やめてほしい」のサインです。

人と犬の絆形成ホルモンの「オキシトシン」の研究により、犬は関係を築いた飼い主とは見つめ合うだけでも濃度が上昇することがわかりました。無理に触れ合うよりも柴犬に合う接し方で良い関係をつくりましょう。

柴犬に多い病気

アレルギー性皮膚炎(犬アトピー性皮膚炎)

アレルギー性皮膚炎とは、皮膚から最初にアレルゲン(花粉やハウスダスト)が侵入したときに免疫システムが過敏に反応して皮膚のかゆみや湿疹が起きる病気です。

主な症状
  • 体をかゆがる
  • 耳をかゆがる
  • 皮膚が赤くなる

犬アトピー性皮膚炎の犬は皮膚のバリア機能が低下しているため、皮膚からアレルゲンが侵入しやすくアレルギーを起こしやすくなります。治療に関しては皮膚疾患に詳しい獣医師に相談しながら上手に付き合っていくことが大切です。

緑内障

眼圧が高くなり、網膜や視神経を圧迫して失明に至る病気です。遺伝的な目の構造による原発性の緑内障と、他の病気から引き起こされた二次性の緑内障があります。

主な症状
  • 目の光り方や目の色が変わった
  • 目が充血している
  • 目をしょぼしょぼさせる
  • 目を前足でかいたり気にしたりする

症状に気づいたらすぐに動物病院を受診してください。

尾追い行動

柴犬に多いと言われる行動のなかに尾を追いかける行動があります。犬が尾を追う行動の原因は、身体の病気や心の問題などさまざまです。尾追いがひどい場合は、自分のしっぽをかみちぎってしまうようなこともあるので、「かわいい行動」と思って放置せずに、獣医師に相談してみてください。身体的な病気よりも「問題行動」と動物病院に言われた場合には、行動治療に詳しい獣医師にご相談ください。

関連記事はこちら

日常生活で気をつけること

パーソナル・スペースが必要な柴犬も多いので、ときには1頭で落ち着いて過ごせるように、玄関や窓から離れた静かな場所にサークルやクレート(ハウス)を置き、ひとりで過ごせる時間を与えてもよいでしょう。犬が食事をしているときに不用意に近づくと、「食べ物を奪われるのではないか」と不安を感じて攻撃性が出やすくなる犬もいます。食事の前の「まて(おあずけ)」は犬を過度にじらすような状況を作るので、用意ができたらすぐに与えてください。

散歩は朝晩合計1時間以上が目安です。コミュニケーションと運動を兼ねて、犬が好きなおもちゃで一緒に遊ぶのもおすすめです。におい嗅ぎが好きなので、除草剤が撒かれていないところや拾い食いの心配がないところでは、ゆっくり自由に過ごさせましょう。

被毛は硬い上毛と柔らかい下毛の二重構造です。抜け毛が増える春と秋が「換毛期」で、犬には大切な衣替えの時期です。ラバーブラシやピンブラシを使って抜け毛を除去しましょう。被毛や皮膚を清潔に保つことで健康維持にも役立ちます。

●参考文献
公益社団法人 日本犬保存会 ホームページ

オキシトシンと視線との正のループによるヒトとイヌとの絆の形成
「はじめてでも失敗しない 愛犬の選び方」(幻冬舎)
「日本の犬」(東京大学出版会)
「犬の家庭医学」(幻冬舎)

 

執筆者:金子志緒

ライター・編集者。レコード会社と出版社勤務を経てフリーランスになる。主に動物や防災に関する雑誌、書籍、ウェブメディアの制作に携わり、企画から入稿まで担当。愛玩動物飼養管理士1級、防災士、いけばな草月流師範。甲斐犬のサウザーと暮らす。
Works:www.shimashimaoffice.work