猫の品種④ラグドール

ラグドールはシルキーな肌触りのセミロングヘアとブルーの眼を持つ大型の猫です。優しい性格の猫であり、高い場所、暖かい場所で静かに過ごすことも多い猫。そんなラグドールと暮らす前に知って欲しいポイントを解説します。

品種の由来

ラグドールは比較的歴史が浅く、1960年代初頭にアメリカで誕生したと言われていますが、正確な起源は不明です。ラグドールとは素朴な手縫いの布の人形のことで、やわらかく、抱き心地が良いという特徴からこのように名付けられました。

ラグドールの特徴

しっかりとした頑丈な骨格を持ち胸は広く、4歳くらいまで体重やサイズが完成しない場合があり、ゆっくり成長する猫と言えます。アンダーコートが少なく、シルキーなセミロングな被毛を持ちます。

ラグドールは温度感受性遺伝子を持つ猫です。温度感受性遺伝子を持っていると体温が低いところでしか色素が作れなくなります。ラグドールの毛色が濃い部分は前足や後ろ足の末端、尾、耳、口の周りと体幹と比べて表面温度が低い部分に限定されます。さて、ラグドールの目の色は何色でしょうか? 目の中は当然温度が高い場所です。そのため瞳の色素を作ることができないため青い目になるのです。このような特徴を持つ品種は他にはシャムやヒマラヤン、バーマンなどがいます。

ラグドールに多い病気

肥大型心筋症

肥大型心筋症とは、心臓(左心室)の筋肉が厚くなってしまい、機能が落ちてしまう病気です。

軽度の場合は運動が嫌いになったり寝ていることが多くなることがありますが、ほとんど症状がでないことも多いです。

進行すると次第に呼吸が苦しくなったり胸水が溜まったりします。心臓内に血栓を作ることがあり、それが流れていって足の血管に詰まると急に足が動かなくなり、最終的には壊死してしまう怖い病気です。

ラグドールはこの病気になりやすい品種として有名で、遺伝することが知られています。ラグドールに肥大型心筋症を起こす遺伝子MYBPC3(R820W)は解明されており、イギリスでは27%のラグドールでこの変異が見つかったという報告もあります{2]。この遺伝子変異を持っているかどうかは、動物病院を通じて検査機関で調べることができます。

肥大型心筋症を早期に発見するためには定期検診が必要です。身体検査や聴診に加えてレントゲン検査や超音波検査、血液検査を組み合わせることで診断が可能です。

残念ながら肥大型心筋症を完治させる治療法はまだ見つかっていません。心拍数を調整したり、心臓の負担を減らしたりして心臓の機能を保つお薬を飲みます。

心臓の超音波画像

猫消化管好酸球硬化性線維増殖症

最近見つかった新しい病気で、消化管(胃や小腸、大腸)に瘤ができて食べ物の流れを阻害してしまいます。特に若齢のラグドールに多いとも言われています。

症状としては

  • 嘔吐
  • 食欲不振
  • 体重減少

です。消化管に瘤ができるため悪性腫瘍(がん)と間違われやすい病気です。

手術が可能な場所であれば外科的に切除します。手術が難しい場合には、抗生物質やステロイドを投与して瘤を小さくすることがあります。

日常生活で気をつけること

ラグドールに限らず、長毛種は飼い主さんがお手入れをしないと毛玉ができてしまいます。1日2回のブラッシングは欠かせません。特に脇の下や股の間は毛玉ができやすいため念入りにブラッシングをするようにしてください。

大型の猫種のため、快適な生活のためにはある程度広さが必要になります。運動不足にならないよう十分なスペースを用意してください。難しい場合には、キャットタワーや猫が登れるような棚などを設置し、上下運動ができるようにすると良いでしょう。

他の品種に比べると探索行動が少なく、高い場所や暖かい場所に隠れることが多いようです。家の中に数カ所、猫が入り込んで隠れられるような箱などを置いてあげるとリラックスできると思います。

 

●参考文献

  1. Borgeat K., Casamian-Sorrosal D., Helps C., et al. Association of the myosin binding protein C3 mutation (MYBPC3 R820W) with cardiac death in a survey of 236 Ragdoll cats. Journal of Veterinary Cardiology, 16(2),73-80.2014
  2. Casamian-Scorrosal D,.Chong SK,.Fonfara S et al. Prevalence and demographics of the MYBPC3-mutaion in Ragdolls and Main Coons in the British Isles. Journal of Small Animal Practice,55,2014
  3. Liston M., Nimmo JS., Norris JM., et al. Feline gastrointestinal eosinophilic sclerosing fibroplasia:13 cases and review of an emerging clinical entity. J Feline Med Surg.17(5) 392-404.2015
  4. Wilhelmy J,Serpell J, Brown D. et al, Behavioral associations with breed,coat type and eye color in single-breed cats, J Vet Behav 13,80-87 :2016

 

執筆者:服部幸

獣医師
経歴:
北里大学獣医学部卒業
2年半の動物病院勤務
2005年よりSyuSyu CAT Clinic 院長を務める
2006年にアメリカのテキサス州にある猫専門病院 Alamo Feline Health
Centerにて研修プログラム修了
2012年東京猫医療センターを開院する
2014年 JSFM(ねこ医学会)理事
15年間、猫の専門医療に携わる