高齢犬の食事の与え方とコツ

食べることは生理的欲求の一つで生きるための活動です。

食べることは日常生活の中心です。

食べたいという気持ちは長生きの秘訣です。

食欲を維持し活動量を上げて筋力を維持することが、高齢犬の食事対策の目的です。

安心して食事ができるようなサポートをしてあげましょう。

食事中のふらつく・すべる、お皿をひっくり返す、こぼす、残すへの対策

高齢になると、頭を食器まで下げる姿勢を続けることが難しくなり、ふらつきや動きの微調整ができず、うまく食べられないということも起こってきます。

犬の食べる動作は筋力が落ちると大変な動作です。

前足が不安定になれば緊張しながら食事をすることになります。緊張していると消化は悪くなるのでできるだけリラックスさせてあげたいものです。

自分で立って食べることができれば、かがみこまなくてすむように食器を台に乗せて高くしてあげると楽になります。

口を動かす筋肉や舌の筋力の低下など、口腔機能の低下からこぼすことも増えてきます。

筋力の低下は集中力の低下を招き、途中で疲れてやめたり休んだりで、遊びながら食べているように見えてしまうこともあります。

食事台

食事台を使うことで頭を深く下げずに食事ができます。

肘の高さぐらいがちょうどよい高さです。

食事台の例1

食事台の例2

食器と盛り付けの工夫

口の筋力の低下で食事が器の外に押し出されたり、底に押し当てられてこびりつきやすくなります。器は底面に傾斜がついていたり。縁の片側が高くなっているものだとこぼしが減ります。早食い防止用の凸凹のついた器も舌ですくいあげやすくなります。

片側が浅くなっている食器の例

盛り付けは、平らよりも山状に盛り上げると食べやすくなります。

食事を山状に盛り付けた例

滑り止め

前足の負担を軽減し、後ろ足の踏ん張りをサポートするための対策です。

足に装着する滑り止めやマットがあります。

低反発のキッチンマットは汚れも処理しやすくお勧めです。

食事の量と回数

活動量や機能の低下で、一回に必要とする量や消化できる量が減ってきます。

与えすぎは消化機能のオーバーワークで消化機能の低下や吸収不良につながります。

食べ残しが見られたら、食べきれる量に減らしましょう。全体の量を保つためには回数を増やしますが、食欲と体重の変化に合わせて調整しましょう。

食事の時間が長いと疲れてしまいます。15分くらいを限度で一旦終了させるとよいでしょう。

口まで食器を運ぶ場合は、車いすに立たせたり、楽で安定した姿勢にして食べさせます。スプーンで口へ運ぶ時も同じように車いすに立たせたり、楽で安定した姿勢にして食べさせます。スプーンで食べさせるときは一さじは舌にのせて運べる量です。

ひとことその1

犬の食事の姿勢は立位でなくてもよいのです。立っていられなくなったら座ってでも伏せでも口から飲み込んで胃に運ぶことができる姿勢であれば問題はありません。

頭が反り返ることがないように、喉元を楽にして口から胃へ楽に飲み込めるようにサポートします。

本人が好む安心して食べられる姿勢が一番なのですが、立って食べる以外の姿勢でも食べられるようにしておくことはおすすめです。

お口の筋トレ

嚙むことも飲み込むにも筋力が必要です。

硬いご飯が食べにくくなって噛むことが減ったり、緊張する場面が多くて舌が硬くなりやすいと、舌の動きが悪くなって食べることも重労働になってしまいます。

ごはんをいつまでも楽しみにできるように、ごはんの時間はお口の体操の時間です。

舐めとったりこそげとったりをとりいれて、いつまでもごはんの時間が楽しみにできるようにしてあげましょう。

ひとことその2

犬は咬む筋肉が発達していますが力を発揮させることはほとんどありません。舌もまた筋肉です。コングなどを利用して舐めとったり齧るような食べ方も口腔機能のトレーニングになります。

食欲のむら・残す対策

食事の食べ残しには、体調だけでなく口腔機能や心理状態も影響します。

高齢犬では食事の時間がお薬の時間となっていることが少なくありません。また食事は健康状態の目安にもなるため、食事の時間は監視の時間になってしまっていることがあります。

お皿にいつも少し残ってしまうような食べ方の原因を知るには観察が必要ですが、理由は何であれ習慣になれば食べる機能の低下は進行します。

食欲のむら・残す対策
  • 食器と盛り付けの工夫
  • 食事の量と回数
ひとこと

「食べる」活動は重労働です。食べる動作にも消化活動にもエネルギーを消耗します。

食べないことは供給が断たれてエネルギーが足りなくなってしまうと考えがちですが、体力回復・温存のために食べないこともあります。食べない間は体の蓄えからまかなうことができます。食事を休んだり量を減らす引き算のケアが必要な時もあります。

高齢犬の体調の変化は緩やかであり、持病もあれば判断を迷うことが多いですが休息も大切な養生法です。もちろん心配なとき、判断できないときはいつでも獣医師に相談しましょう。

食後に吐く・ウロウロ歩き回る

食事と一緒に空気を飲んでしまったり食道に食事が停滞しやすくなる、胃の運動が弱くなるなどでゲップや吐き戻しがみられるようになります。

胃もたれ感から食後落ち着かないことも出てきます。

食事の介助のしかた

頭の位置を安定させると食事に集中することができます。

姿勢の不安定さが進行したら、ふらつかないように食事の際に体を支えて、安心して食事ができるようにサポートしましょう。

食べさせる食事介助のコツ

自分で立っていることが困難になったら、食事は口まで運ぶことになります。

胃が口より下になるように姿勢を整えて食事を与えます。

口へ運ぶ一さじの量は最大で舌で運べる量です。これは流動食でも同じです。

食事は咽頭に2、3口量を溜めてから口を閉じてゴクンと飲み込みます。口を開けたままでは飲み込みづらいので注意しましょう。飲み込んだことを確認しながら少しずつ食べさせましょう。

介助の様子

食後の飲水・口腔ケア

食後にお水を飲ませましょう。のどに残った食事が残っていることがあります。口腔内の洗浄にもなります。

食休み

食後は胃より頭を高くし、胃から逆流が起こらないように姿勢を整えて、30分ほど休ませます。

ゲップが出なくて落ち着かない様子であれば背中をさすってあげると出やすくなります。

真横よりは上体を起こして伏せに近い姿勢が消化に楽な姿勢です。

さいごに

犬猫の介護ケアは現在も発展途上です。本記事でお気づきの点がございましたらお知らせください。

ペットホームケアえるそる https://phcelsol.jimdofree.com/

 

執筆者:松本晃子
獣医師
ペットホームケアえるそる:犬猫訪問鍼灸・介護リハビリ 訪問獣医師
https://phcelsol.jimdofree.com/
ペットケアサービスLet’s(高齢犬デイケアサービス&犬の幼稚園):デイケア担当 非常勤
赤坂動物病院:シニアケア担当 非常勤
日本獣医生命科学大学卒、獣医中医師・獣医推拿整体師、
獣医保健ソーシャルワーカー®、横浜市動物適正飼育推進員