猫の品種①スコティッシュフォールド

スコティッシュフォールドの特徴は、なんと言っても前に折れた耳とまん丸の顔です。とても人気のある品種で、日本では一番数が多い純血種でもあります。この折れた耳には注意しなければならない秘密があります。スコティッシュフォールドと暮らす前に知って欲しいポイントを解説します。

品種の由来

スコティッシュフォールドは、1960年代の初期にスコットランドのバースシャー地方の農場でWilliamとMary Ross夫妻により偶然発見された折れ耳の猫『Susie』が由来です。その後、Susieを他の品種(立ち耳)と交配させても折れ耳(フォールド)の特徴が受け継がれることが確認され数を増やしてゆき、その子孫たちがスコティッシュフォールドという品種として確立されました。

折れ耳のスコティッシュフォールドは後述の骨軟骨異形成症を発症するリスクが高く、動物愛護の観点からスコットランドやベルギーやオーストリア、UAEなどでは繁殖が禁止されています。スコティッシュフォールドロングヘアーはスコティッシュフォールドの長毛種版です。

なお、The International Cat Association(TICA)では、立ち耳のスコティッシュフォールドはスコティッシュストレートという新しい品種として登録されています。

スコティッシュフォールドの特徴

スコティッシュフォールドの特徴はなんと言っても前に折れた耳で、耳のサイズは小さめです。頭はどの角度から見ても丸く見え、目は大きく開いており、丸く可愛らしい印象を受けます。中型の体型で、横から見て肩から腰までは平らです。他の品種に比べて攻撃性や活動性が低いという報告があるため、比較的のんびり暮らすことができることが多いようです。

スコティッシュフォールドに多い病気

骨軟骨異形成症

体の関節の軟骨や骨がうまく形成できない病気です。関節では骨の表面に軟骨があり滑らかに動くようになっていますが、この部位に構造の異常が起きてしまい、うまく関節を動かすことができなくなります。中には関節がこぶ状に盛り上がり、強い痛みから歩くことができなくなることもあります。手根関節(手首)や足根関節(足首)、尾椎(尻尾)に影響が出やすい病気です。

骨軟骨異形成症

 

症状としては

  • 歩き方がぎこちない
  • 四肢の痛みのため痛い足をかばって歩く
  • 高いところに登るのを嫌がる
  • グルーミングをしなくなるため毛玉ができるようになる
  • 足を曲げて座ることができない(いわゆるスコ座りをする)

などがあります。

耳が折れているスコティッシュフォールドでは、理論上100%発症すると言われています。この病気に対して根本的な治療法はなく、放射線治療などが試みられていますが完治させることはできません。生活の質(QOL)の維持を目的に、痛み止めが使用されることもあります。

両親とも折れ耳の場合、一定の確率で子猫が重度の症状を起こすことがあるため、良識的なブリーダーでは折れ耳同士の交配は敬遠されています。避けられています。遺伝学的な知識がないまま、安易な繁殖は避けるべきだと思います。血統を維持するためThe International Cat Association(TICA)ではアメリカンショートヘアー、ブリティッシュショートヘアー、ブリティッシュロングヘアーとの交配が認められています。

注)血統管理団体により違いはあります。

尿路結石(シュウ酸カルシウム)

近年、猫全体で腎臓と尿管(上部尿路)に発生するシュウ酸カルシウムの尿路結石が増えています。これは有名な膀胱や尿道(下部尿路)にできるストラバイトとは別の尿路結石です。特にスコティッシュフォールドは他の品種に比べてこのシュウ酸カルシウム結石になりやすい品種です。シュウ酸カルシウム結石ができてしまう原因は完全に解明されておらず、食事や少なすぎる飲水量などが原因として考えられています。

 

症状としては

  • 元気や食欲がない(これは軽度のこともあります)
  • お腹を痛そうにしている
  • 尿に血が混ざる

などです。

診断をするには血液検査だけでは発見ができずレントゲン検査や超音波検査などの画像の検査が必要になります。気になる症状がでている場合、動物病院で相談してください。

多発性嚢胞腎

スコティッシュフォールドの特徴である丸い顔はペルシャから受け継いだものです。そのため、ペルシャに多い多発性嚢胞腎という遺伝病を受け継いでしまっていることもあります。多発性嚢胞腎とは腎臓の中に水の袋(嚢胞)がたくさんできてしまい腎臓の機能が次第に落ちてしまう病気で現在治療法は見つかっていない難病です。

日常生活で気をつけること

折れ耳のスコティッシュフォールドは100%骨軟骨異形成症を持っていると言われています。ただし痛みの程度は猫によって異なり、ほとんど痛みがない場合や、生活に支障がない程度、歩くことが痛いなど様々です。段差の間隔が短いキャットタワーや、縁が高くない猫トイレを用意したり生活に困らないようにしてあげてください。

スコティッシュフォールドは耳がただ折れているだけではなく耳道が狭いという特徴を持ちます。そのため耳が汚れやすく外耳炎のリスクも高くなるため定期的に耳の汚れをチェックしてください。

外耳炎

 

また、スコティッシュフォールドは爪の出し入れができないことが多く、猫自身で爪研ぎをうまく行うことができず爪が太くなりやすい品種です。そのまま放置すると爪が肉球に刺さってしまうため、こまめに爪切りを行うようにしてください。

●参考文献

  1. Takeuchi Y., Mori Y., Behavioral profiles of feline breeds in Japan. J Vet Med Sci. 2009
  2. Takanosu M., Takanosu H.,Suzuki H., et al. Incomplete dominant osteochondrodyplasia in heterozygous Scottish Fold cats. Journal of Small Animal Practice, 2008
  3. Bertolini F., Gandolfi B., Kim ES., et al. Evidence of selection signatures that shape the Persian cat breed. Mamm Genome, 2016

 

執筆者:服部幸

獣医師
経歴:
北里大学獣医学部卒業
2年半の動物病院勤務
2005年よりSyuSyu CAT Clinic 院長を務める
2006年にアメリカのテキサス州にある猫専門病院 Alamo Feline Health
Centerにて研修プログラム修了
2012年東京猫医療センターを開院する
2014年 JSFM(ねこ医学会)理事
15年間、猫の専門医療に携わる